第8章 命が宿るプレゼント(その65)
「・・・・・・。」
哲司は必死である。
掛け算ではなく、足し算なら出来るとは思ったものの、これが意外と手間が掛かる。
何しろ、150グラムを6回足すことになるからだ。
(う~んと・・・、150の倍は300で・・・、そこに150を足すと・・・450。
で、そこにまた150を足すと・・・。)
哲司の頭の中を実況中継するとすれば、多分こんな具合だ。
「・・・・・。」
哲司が必死なのを感じてか、祖父も黙ってそれを見ていてくれる。
その視線だけを哲司は感じている。
「で、できた!」
哲司がようやくそう声を上げる。
「そ、そうか・・・。じゃあ、何グラムになった?」
「えっとね、900グラム。」
「それに間違いは無いか?」
「えっ! ま、間違ってる?」
「哲司は、どうしてそんなに弱気なんだ?」
「ん?」
哲司は祖父の言葉が飲み込めない。
「ちゃんと計算したんだったら、どうしてそうだと言わない?」
「う~ん・・・。」
「自信が無いからか?」
「そ、それもあるかも・・・。」
「ちゃんと合ってる。それで正解なんだ。
些か時間は掛かっちゃあいるが、哲司は哲司なりに必死でやってたんだろ?
もっと自信を持て。
時間がかかっても、ちゃんとしたやり方をすれば、必ず正解に辿り着くんだ。」
「・・・・・・。」
「このことは、何も、学校の勉強だけに言えることじゃあない。
他の、どんなことに対してもだ。
努力さえすれば、必ず最後にはちゃんとした答えに辿り着くんだ。
な、覚えておくんだぞ。」
「う、うん・・・。わ、分かった・・・。」
「そこでだ。話を元に戻そう。
今、哲司が計算してくれたようにだ、米6合の重さは、大凡900グラムだ。」
「う、うん・・・。」
哲司は、自分が出した答えを認めてもらえたようでちょっぴり嬉しくなる。
「と、いうことはだ・・・。さっき計ったこのふたつのボールの米、どっちが6合なんだ?」
「ええっと・・・、こっち。」
哲司は、さきほど書いたチラシの裏の数字を見てから指をさす。
そう、まだ秤の上に乗っている方をだ。
(つづく)