第8章 命が宿るプレゼント(その63)
哲司がその目盛りの針を興味深そうに覗き込む。
「何グラムだ?」
祖父は、目を極端に細めて訊く。
どうやら、そこまでしても目盛りの字が読みにくいようだ。
老眼だとか言っていた。
「う~んと・・・、1キログラムと49グラム。」
哲司は、慣れない目盛りを指先で押さえるようにして言う。
「ん? つまりは、約1050グラムだな?」
「う、うん・・・、そうとも言う・・・。」
哲司は、笑って誤魔化す。
「じゃあな、そこのチラシの裏で良いから、メモしておいてくれ。」
「ん? なんて?」
「だから、1050グラムって書いておいてくれ。」
「あ、うん・・・、分かった。」
哲司は、どうしてそんなことをしなくては行けないのか分からないままに、それでも、言われたとおりにチラシの裏に鉛筆で「1050グラム」と書いておく。
どうして「1049」ではないのかも分からない。
「今度はこっちだ。」
祖父は、そう言ってもうひとつのボールを秤に乗せ替える。
「これは何グラムだ?」
「う~んと・・・、898グラム・・かな?」
哲司が、先ほどと同じようにして目盛りを読む。
「そ、そうか・・・、じゃあ、約900グラムだな。
それも、そこに書いておいてくれ。」
「900グラムって?」
「ああ、そうだ。」
「・・・・・・。」
哲司は、また同じようにして鉛筆で「900グラム」と書き入れる。
自分が言った「898グラム」は忘れることにする。
「やっぱり、こっちの方が少なかったね。」
哲司は、まだ秤の上にあるままとなっているボールを指差して言う。
後から鍋に入れた分だった。
「これで、このふたつのボールに入っている米の量が違うってことは分かったな。」
祖父は、その事実を確認するかのように言ってくる。
「う、うん・・・。」
哲司はそう答える。
それは、秤に乗せる前から気が付いていたことだ。
「じゃあ、どっちが正しく6合の米が計れていたかだ。」
祖父が訊く。
「こっちだよ。」
哲司は、まだ秤の上にある方を指差して言う。
(つづく)