第8章 命が宿るプレゼント(その61)
「う、う~ん・・・。言ってた。」
哲司は認めざるを得ない。
その時はその時で、それなりの自信はあったのだ。
「それでも、やっぱり、この量は違っているってか?」
祖父がふたつのボールに入れた米を見比べるようにして言う。
「う、うん・・・。多分・・・。
だ、だって、こうして見ただけで、こっちの方が多いって分るもの。」
「でも、多い方が正しくて、少ないほうが数え間違いだってこともあるんじゃないのか?」
「そ、それは・・・。」
そこまで言われると、哲司ももう何とも言えない。
どちらも、その時点においては「うん、これで6杯だ」と信じて疑わなかったものだからだ。
その筈だったのに、こうして同じ大きさのボールに入れて見比べると、どうしてもその差が明確になる。
そ、それでも、後からやったほうがより完璧だという自負はある。
「それが、哲司のいけないところだ。」
祖父は、秤の目盛りを確かめながら言ってくる。
「ど、どこが?」
「どちらの場合も、これは哲司が自分で数えながらやったものだ。
それでも、こうしてその結果に差が出たんだ。」
「そ、そうだけど・・・。」
哲司は、「だから最初が間違ったって言ってるじゃない?」という思いを飲み込んで言う。
「だったら、やはりどちらが正しかったのかは、ちゃんと確かめて置くべきだろう?
後からのほうが正しいと、どうして言い切れる?」
「・・・・・・。」
「一生懸命にやったことだから、それを信じたいと思う気持はよ~く分かるし、大切なことではある。
自分を信じるということだからな。
それでもな、人間は、誰でも勘違いをしたり間違ったりはするものなんだ。」
「・・・・・・。」
「同じようにしていた筈なのに、結果としては別の量となった。
そうしたとき、つまりは、迷ったときや正解が分からなくなったときには、やはり原点に戻ってみることだ。」
「げ、原点って?」
「つまりは、どうしたら答えが見つけられるかを考えるってことだ。
この場合で言えば、秤がここにあるんだから、それで計ってみればどちらが正しく6合になっているかが分かるだろ?」
「えっ! そのハカリで6合のお米って計れるの?」
哲司は訳が分からなくなる。
「さあ、どうかな?」
祖父は、ようやくにっこりと笑った。
(つづく)