第8章 命が宿るプレゼント(その60)
「う、うん。」
哲司が元気に答える。
そして、改めてマスに米を入れて、それをお釜に移す。
「お釜のほうは終わったよ。」
「じゃあ、次は、この鍋に同じ6合分の米を入れてくれ。」
「う、うん・・・。」
哲司は、またまた同じ作業を繰り返す。
そして、「これで1杯、これで2杯」と口の中で数えていく。
そうする哲司を気遣ってか、祖父はじっと黙って哲司の作業を見つめている。
「よ~し! これで6杯だよ。」
哲司はも今度ばかりは完璧だと思った。
それだけ集中できたということだった。
額に汗が浮かぶ。
「ほう、出来たか。
じゃあな、次は、釜と鍋の中の米を、それぞれにこのボールに入れてみる。
溢しちゃあ何にもならないから、これだけは爺ちゃんがやってやる。」
祖父は、そう言ったかと思うと、同じ大きさの透明なボールを出してきて、その中に釜と鍋から、それぞれ米を移し変える。
「よし、これで計れるな。」
「・・・・・・。」
哲司は生唾を飲んだ。
明らかに、ふたつのボールの米の量が違うのが見た目にも分かる。
「ち、違ってるね・・・。」
哲司が違いを認める。
つまりは、どちらかが間違っているのだ。
「おう、そうなのか?」
祖父は、そんなことには気が付いてませんというような顔をする。
「じゃあ、これを計ってみるか。」
祖父は流し台の下からバネ式のはかりを取り出してくる。
そう、上に真っ平らな金属の板が乗った形式のやつだ。
「う~ん・・・、もう計らなくっても良いよ。僕が間違ってたんだから・・・。」
哲司は、自分の非を認める。
そう、いとも簡単にだ。
「で、でもな・・・、じゃあ、どっちが6合なんだ?」
祖父がそう問うてくる。
「お鍋に入れた方・・・。それはちゃんと数えてたから・・・。」
哲司はこれだけは絶対の自信があった。
「そうか・・・。でも、哲司は、お釜のときにもちゃんと数えたからと言わなかったか?」
祖父は、テーブルの上に秤を置いて言ってくる。
(つづく)