第8章 命が宿るプレゼント(その58)
「う、う~ん・・・、それって、良いことなの?」
哲司は、多分そうなのだろうとは思いつつも、敢えてそう確認する。
ゆっくりで構わないと言われたことがなかったからだ。
いつも、「早く、早く」と追い立てられてきたように思う。
「ああ、もちろんだ。」
祖父は、依然として哲司から目を離さないで言ってくる。
「わ、わかんないよ・・・。いま、そんなことを言われたって・・・。」
哲司は顔を赤らめるようにして、それだけを言う。
「おおっ! 哲司、それで何杯目だ?」
祖父が慌てて訊く。
「ええっ! う、う~んと・・・。」
哲司は答えられなかった。
確か、次が6杯目だと思っている。
「だから、ちゃんと数えてないと駄目だと言ったろ?
どれ、見せてみろ。」
祖父がお釜を持ってくるように手で示す。
「う、うん・・・。」
哲司がお釜を抱きかかえるようにして持っていく。
「爺ちゃんに、ごつごつの飯を食べさせるつもりか?」
お釜の中を覗いた祖父が言う。
「そ、そんなつもりは・・・。」
「だけど、哲司はもう1杯入れるつもりだったんだろ?」
「う、うん・・・。」
「だったら、結果としてはそうなる。」
「だ、だって、次で6杯目だよ。」
「本当にそうか?」
祖父が珍しく強い口調で言う。
「う、うん・・・。そのはずだよ。」
哲司は、完璧とは言えないまでも、自分としてはそう信じていたから、そう言い切る。
「う~ん・・・、そうか・・・。」
祖父は、どうしてか少し考えるように言う。
「分かった。じゃあ、最後の1杯を入れたら、こっちに持って来てくれ。
米の洗い方を教えるからな。」
祖父は、哲司の主張を受け入れてくれる。
「う、うん。分かった。」
哲司は、そうは言ったものの、そこまで言われると、些か心細くなる。
(つづく)