第8章 命が宿るプレゼント(その57)
「つまりはだ、水に濡れても、膨張したり収縮したりしないんだ。
しかも耐久性がある。薬剤処理をしなくっても使えるぐらいにだ。
だから、家や風呂を造る木材としてうってつけなんだな。」
祖父は、そう補足してくる。
「それだから、高いの?」
哲司は、それでも値段の話が頭から抜けない。
「う~ん、日本で一番多い材木は杉なんだが、同じ期間育てても、檜は杉の半分ぐらいの大きさにしか育たない。
つまりは、成長が遅いんだ。杉の2倍は掛かる。
大きくするのにそれだけの手間が必要になるから、どうしたって、その分高くなる。」
「ふ~ん・・・、そ、そうなんだ・・・。」
哲司は感心する。
それは、何もヒノキという木材についてではない。
そうした話を、何も見ないでスラスラと言える祖父に対してだ。
どこでそんな勉強をしてきたのかと思う。
以前、家で、そのヒノキ風呂の話が出たとき、「どうしてヒノキ風呂だと高いの?」と訊いたことがあった。
それでも、その場にいた父も母も、その質問には答えてくれなかった。
今考えると、恐らくは、その答えを知らなかったのだろう。
「その家や風呂を造るのにうってつけな檜なんだが、その特徴から、そうした升もそれで作るようになったんだ。」
「ん?」
「ひとつには、大きさの割りに軽いってことだ。
そうしてその中に何かを入れて計るんだから、升自体が重たくては使いにくいだろ?」
「あああ・・・、そうだね。」
哲司は、手にしていたマスの重さを量るようにする。
確かに、意外と軽いものだと思う。
「それにな、さっきも言ったが、耐水性がある。
つまりは、水に強いんだ。濡れても歪まないんだ。
だから、そうした計りに最適なんだな。」
「ああ・・・、な、なるほど・・・。」
哲司も、ようやくマスがヒノキで作られている理由が飲み込める。
「そういう意味では、哲司も檜なのかも知れんな?」
祖父が目を細めるようにして言う。
「ん? ど、どういうこと?」
哲司は、自分がヒノキだと言われたことが分からない。
「ゆっくりとしか大きくならない。
だが、その分、強くって歪の無い大人になる。
そういうことだ・・・。違うか?」
祖父は、哲司の顔をじっと見てそう言ってくる。
(つづく)