第8章 命が宿るプレゼント(その56)
「い、今は、それが計量カップになったってこと?」
哲司は、「昔は・・・」と言われたから、ついそう言う。
「ああ・・・、そうだなぁ・・・。
そうとも言えるし、言えない部分もある。」
「ん?」
「升は、今も言ったように、いろんな大きさがあった。
それでもな、それは、物を計るというよりも、どちらかと言えばひとつの器、つまりはひとつの価値を示すものだったんだ。」
「ん?」
「今、竹をああして日陰で乾かしている。
どうしてだが分かるな?」
祖父は、哲司の疑問に答えることなく、別の話題を持ち出してくる。
「う、うん・・・。竹がまっすぐなままで乾くかどうかなんでしょう?
少しでも歪んだら、笛には出来ないって・・・。」
哲司は、祖父から教えてもらったことを復唱するかのように言う。
「ああ、そのとおりだ。よく覚えていたな。感心感心・・・。」
「・・・・・・。」
「それでだ、その升なんだが、木で出来ているだろ?」
「う、うん・・・。」
「それは、檜という木で作ってある。」
「ヒノキ? そ、それって、すごく高い木じゃないの?」
哲司は、イメージだけでそう言う。
「背が高いってことか?」
「ううん、そうじゃなくって・・・。」
「あははは・・・、値段がか?」
「う、うん・・・。」
「どうして、そう思う?」
「う~ん・・・、お父さんが言ってたような・・・。
だって、ヒノキで造った家って高いんでしょう?
それに、お風呂も・・・。」
「あははは・・・、なるほど・・・。
確かに、そう言われれば、そうなのかも知れんな。」
祖父は納得するかのように頷いてみせる。
「だったら・・・、どうして、そんな高い木で、このマスを作ってあるの?
何か、もったいない・・・。」
「おお・・・、それも良いところに目を付けた質問だな。」
祖父は、にこりと笑う。
「じゃあな、逆に質問だ。
どうして、檜で造った家や風呂は高価なんだ?」
「う~ん・・・、わかんない。そのヒノキっていう木が高いから?」
「それもあるが、檜っていう木は、一度乾くと、滅多に反ったり割れたりしないんだ。
それに、水に強い。」
「?」
哲司は、言われることがもうひとつ理解出来なかった。
(つづく)