第8章 命が宿るプレゼント(その54)
「ああ、そうだ。」
祖父が頷く。
「マスって?」
哲司は升を知らなかった。
「その木で出来た箱みたいな奴だ。」
「へえ~、これをマスって言うんだ・・・。」
「ああ、それ一杯が1合だ。だから、それに6杯だな。
入れてみな。」
「う、うん・・・、やってみる。」
哲司は、その升を見て、多少は気が楽になった。
やり直しが利きそうに思えたからだ。
哲司は米櫃の横に座りこむようにして、升の中に米を入れ始める。
で、すぐに分からなくなる。
「マスのどこら当たりまで入れたら良いの?」
哲司が祖父を見上げるようにして訊く。
「あははは・・・。」
祖父が笑いながらやってくる。
どうにも、口だけでは説明できないと思ったらしかった。
「いいか・・・、これはだな、こうして使うんだ。」
祖父は、その升をいきなり米の中へと突っ込んだ。
そして、空いている手で、その升の上を平らに撫でるようにする。
「これが1合だ。こうして、米を水と同じようにして測るんだ。
少なくてもいけないし、山盛りでもいけない。
じゃあ、やってみな?」
祖父は、そう言ったかと思うと、手にしていた升をひっくり返して、折角入れた米を元に戻してしまう。
つまりは、自分は手伝わないという意味らしい。
「う、うん・・・。分かった。で、でも・・・、見ててよ。」
哲司は離れようとした祖父をそう言って引き止める。
やはり、「それでよし」とのお墨付きが欲しかった。
「そうそう・・・、それで良いんだ、その調子・・・。」
祖父は、哲司の手の動きを見ながら、そう言ってくれる。
その言葉だけで、哲司の手は迷わないで動く。
「よしよし。そうだ。それで1合だな。
じゃあ、それをこの釜の中に入れて・・・。」
「・・・・・・。」
哲司は黙ったままで、そうの指示に従う。
溢さないように、慎重になっている。
「よ~し、それで良いんだ。それを後5回だな。
緊張して、入れる回数を間違うなよ。
そうでなければ、べちゃべちゃの飯になったり、逆に硬い飯になったりするからな。
じゃあ、任せたぞ。」
祖父は、そう言ってまた台所の方へと戻って行った。
(つづく)