第8章 命が宿るプレゼント(その52)
「あの婆ちゃんにも、孫がいる。もう、相当に大きいんだろうが・・・。」
「う、うん・・・、それはお婆ちゃんから聞いた。」
「その孫でさえ、とんと顔を見せない。
むろん、その親も来ないんだが・・・。」
「・・・・・・。」
「敬老っていう言葉の意味を間違ってるんだろうな。」
「ん? ケイロウって、あの“敬老の日”のケイロウ?」
「ああ・・・、そうだ。
最近じゃあ、敬老と言えば、まるで区分の対象みたいに言う。
本来は、そうしたものじゃない筈なんだが・・・。」
「区分って?」
「う~ん、嫌な言い方をすれば、別格にしようって考え方だ。
哲司が言った“敬老の日”だってそうだ。」
「・・・・・・。」
「もともとは、“長い間社会に尽くしてきた老人を敬愛し、長寿を祝う日”として9月15日を祝日にしてきたんだが、最近じゃあ、祝日、つまりは休みになることだけに意義を感じる風潮がある。
家に老人がいる家庭でも、その日に行われる市町村の行事にその老人を送り出すだけになってる。
つまりは、その日だけは、市町村が面倒を見てくれるってな・・・。」
「・・・・・・。」
「今の若い世代には、老人を敬うなんて発想は無い。
如何にも時代遅れで、頑固で、意地悪で、文句ばっかり言う・・・。
それが老人だって思うらしい。
つまりは、厄介者なんだ。
いずれは、自分もそうなるとは考えない。」
「・・・・・・。」
「まあ、哲司にこんな事を言うのは筋違いだとは思うんだが・・・。」
祖父は、肩の力を抜くようにして言う。
「ううん、そんなことはないよ・・・。
で、でも・・・・、僕は、お爺ちゃんのことを尊敬してるよ。
凄いお爺ちゃんだと思ってる。
お婆ちゃんもそうだったし・・・。
もう、死んじゃったけれど・・・。」
哲司は必死の思いでそれだけを立て続けに言う。
頭を整理している暇はなかった。
「そうか・・・、それは、ありがとな。言葉だけでも嬉しいよ。」
「ううん・・・、口だけじゃないよ。本当に、本当にそう思ってるんだからね・・・。」
哲司は涙が出そうになる。
「ま、詰まらんことを言った。
じゃあ、ちょいと早いんだが、晩飯の準備でもするかな?」
祖父は、そう言って、ようやく縁側から立ち上がる。
(つづく)