第8章 命が宿るプレゼント(その51)
「ど、どういうこと?」
そこまで言われても、哲司にはその意味が分からない。
「そりゃあな、丸子ちゃんも可愛いと言えばそうなるかも知れん。
元々が愛玩犬なんだしな。
でも、哲司が毎日握り飯を持っていくって言ったのは、決して丸子ちゃんが可愛いからじゃないだろう?」
「う~ん・・・。」
哲司は自信が無い。
「あの丸子ちゃんって犬は、非常に賢い。
自分がやるべきことをしっかりと理解しているし、近づいてくる人間のこともしっかりと見抜いている。
だから、哲司が行っても、警戒して吼えたり、逆に甘えてじゃれたり、遊んでくれって駄々を言ったりはしなかっただろ?」
「う、うん・・・、それは・・・。」
「つまりはだ、哲司が婆ちゃんにとって危険な人間ではないし、かと言って、自分が甘えて遊んでもらえる相手だとも思っていないんだな。
賢いだろ?」
「う、う~ん・・・、そう言われれば・・・。」
哲司は、丸子ちゃんの立ち振る舞いを思い出している。
「それなのに、哲司は、その丸子ちゃんのために、握り飯を作って持っていくって言ったんだ。」
「・・・・・・。」
「て、ことはだ。それは、あの婆ちゃんのことを思ってなんだ。
理由はどうでも良かったんだろ?
まずは、婆ちゃんといろいろと話してあげたくなった。
それだけ、婆ちゃんに喜ばれたって意識が哲司にあるんだろ?」
「・・・・・・。」
「だから、爺ちゃん、嬉しいって言ってるんだ。
そうした気持でいてくれてってな・・・。」
「・・・・・・。」
「この村にも、少なくなったとは言っても、子供はいる。
哲司のように、小学校に通う子が10人ぐらいはいるんだ。
それでもな・・・、今の子は、ああした年寄りを毛嫌いするんだ。
まして、寝たっきりだろ?
だから、誰も訪ねたりはしないんだ。」
「ど、どうして?」
哲司は不思議に思う。
「ほらな・・・。そこが違うんだ。」
「ん?」
「哲司は、あの婆ちゃんのところへ行くのが嫌じゃないだろ?」
「う、うん・・・。いろんな話ができるし・・・。
皆、どうして嫌がるの?」
哲司は、正直、その点が分からない。
「他人のことを思いやる気持が薄いんだ・・・。」
祖父は、唇を噛むようにして言ってくる。
(つづく)