第8章 命が宿るプレゼント(その50)
「そうだ。哲司は、自分の悪い部分は意識してるんだろうが、その反面で、自分の良さってところに気がついて無い。
どうも、そんな気がしてならないんだ。」
祖父は、諭すようにゆっくりと言ってくる。
「ぼ、僕の良さ?」
哲司は、そう言われることに心当たりが無い。
「ああ・・・、だから、お母さんにも改めて言っておかなきゃならんと思っとる。」
「えっ! な、何を?」
哲司は少し慌てる。
いきなり「母親に言う」と言われたからだ。
「だから、哲司の良い点をもっとよく見てやれって・・・。」
「・・・・・・。」
哲司は答えられない。
「ん? どうした?」
祖父は、哲司が黙ってしまったことが気になったようだ。
「そ、その・・・、僕の良い点って?」
「あはは・・・、やっぱりな・・・。」
祖父は、何かを納得するかのように3度も頷いた。
「そうだなぁ・・・。それは、自分で気が付くのが一番なんだろうが・・・。
ちょっとだけ言っておくと、ひとつは、優しいってことだ。」
「やさしい? ぼ、僕が?」
哲司は、そんなことを言われた記憶は無い。
「ああ・・・、哲司は、他人の痛みが分かるみたいだな?」
「・・・・・・。」
「例えば、丸子ちゃんがいる婆ちゃんのことだ。
あそこに迎えに行ったとき、婆ちゃんの嬉しそうな顔を見てそう思った。」
「ん?」
哲司は言われていることが理解出来ない。
「婆ちゃんが、ひとりで淋しいんじゃないかって思っただろ?」
「う~ん・・・、少しは・・・。」
「で、具体的にどんな話をしていたのかは知らないけれど、あの婆ちゃんがあれだけ嬉しそうな顔をしていたんだから、きっと、婆ちゃんの気持を分っての話ができていたんだろうと思う。」
「そ、そうなのかなぁ・・・。」
「で、これから毎日丸子ちゃんに握り飯を持っていく約束をしたんだろ?」
「う、うん。」
そこだけは、哲司も自分で意識している。
「それってな、丸子ちゃんのためって言うより、哲司が毎日あの婆ちゃんのところに行ってあげるべきだって考えたからじゃないのか?」
「う、う~ん・・・、そうなのかなぁ・・・。」
「なっ!」
祖父は、「ほら、見たことか」とでも言うような顔をする。
(つづく)