第8章 命が宿るプレゼント(その45)
「ふ~ん・・・。」
哲司は、そう言われると、家康と秀吉の違いが何となくだがイメージできる。
ただ、それほど具体的なものではない。
「昔はなぁ、皆、親の背中を見て育ったもんだ。
男の子は父親の。そして、女の子は母親のな。」
とうとう祖父は縁側で哲司の傍に座り込んでしまった。
「・・・・・・。」
哲司も同じようにしてそこに座る。
「男の子は、基本的には父親の仕事を受け継いだんだ。
庄屋に生まれた子は庄屋に。
魚屋に生まれた子は魚屋に。
八百屋に生まれた子は八百屋に・・・って具合にな。
だから、武将の家に生まれた子は武将になることがほぼ運命付けられていたし、百姓の家に生まれた子は百姓になるのが当たり前だったんだ。」
「えっ! そ、そうだったの?」
哲司は思いがけない事を聞いたような気がした。
「だから、親もそのつもりで仕事を教えたし、子供も父親からいろんなことを習ったんだ。」
「だ、だったら・・・、学校は?」
哲司は自分に置き換えて訊く。
「ほう・・・、学校なぁ・・・。」
祖父は、どうしてか、遠くを見るような目をした。
「それは、時代によって状況が違う。」
「時代によって?」
「ああ・・・、その家康や秀吉が子供だった頃には、そうしたものはなかったんだ。」
「えっ! じゃあ、勉強って、しなくっても良かったの?」
哲司は、あくまでも自分のレベルで考えている。
「あははは・・・。
そうだなぁ・・・、哲司が言う勉強ってのは、ある特定の子だけに限られていたんだ。」
「えっ! そういう子が行く学校ってあったの?」
「いや、学校というものじゃなくって、そうだなぁ、今で言えば、専属の家庭教師が付いてたってことかな?
つまり、そこそこ金持ちで、将来の仕事をするに当たって、どうしても文字を書いたり読んだり出来なければいけない子だけがそうした教育を受けていたんだ。」
「ふ~ん・・・。」
哲司は、ある意味で羨ましかった。
哲司の家も、決して貧乏ではないが、かと言って金持ちでもない。
そうであれば、その家康や秀吉の時代であれば、自分も嫌いな勉強なんてさせられなかったのではないか・・・。
そう思ったのだ。
「その違いもあったのかも知れんな。」
「ん?」
「家康はそうした勉強をしていたが、秀吉はしていなかった。」
祖父の言葉が、哲司の妄想をぶっ壊しに来る。
(つづく)