第8章 命が宿るプレゼント(その44)
「知恵を・・・って・・・。」
哲司は、もうひとつピンと来ない。
「つまりはだ、天下を治めていくための知恵を作り上げたんだな。
そして、それをきちんと次々とその子孫に伝えられるようにしたんだ。
だから、300年も続いた。
外国からの圧力を受けるまではな・・・。」
「・・・・・・。」
「恐らく、当の家康も、まさかそんなに続くとは思っていなかっただろうが・・・。」
「・・・・・・。」
「哲司は、豊臣秀吉ってのも知ってるだろ?」
祖父が傍にやってきて言う。
「ああ・・・、大阪城を作った人? サルって呼ばれてたんだよね。」
哲司は、それぐらいの知識しかない。
「あははは・・・、そうだ、そうだ。
その秀吉も有名な武将だな。天下統一を成し遂げた最初の日本人だしな。」
「そ、そうなんだ・・・。」
「でもな、家康と決定的に違ったのは、そうした自分の知恵を子孫にちゃんと残してやれなかったってことだ。」
「ん?」
「つまりは、自分が天下を取ったのに、それに至るまでの経験というか、知恵というか、そうしたものをちゃんと後世に伝える事が出来なかった。
つまりは、自分だけで終わってしまったって事だ。」
「・・・・・・。」
「だから、その秀吉が死んだら、家康に天下を乗っ取られたんだ。」
「・・・・・・。」
「そのふたりに共通する事は、子供のとき、若いときに人一倍苦労したって事だ。」
「・・・・・・。」
「家康は弱小な国の子供として生まれた。で、子供のときから他国の人質にとられたりしてな・・・。」
「人質?」
「ああ・・・、言う事を聞かなければ、こいつを殺すぞって・・・ってな。
そして、一方の秀吉も苦労の人生だった。
元々は百姓、つまりは農家に生まれた子供だ。家も貧乏だった。」
「えっ! お百姓だったの?」
「そうだ。だから、ふたりとも、天下を取るまでには一般の人の数十倍の苦労をしている。
だからこそ、そうして歴史に名が残るような人物になったんだが、やはりその最後が違ったんだな。
1代で、いや、厳密に言えば2代で終わった秀吉と、15代まで続いた家康との違いは、自らが経験して会得したいろいろな知恵を後世の子孫にちゃんと伝えられたかどうかなんだ。」
祖父は、哲司の顔を見つめるようにして言ってくる。
(つづく)