第8章 命が宿るプレゼント(その43)
「そ、それって、竹にとって嬉しい事なの?」
哲司はそうなのだろうとは思いつつも訊く。
腐って地面の中に吸い込まれてしまうよりは良いのだろうと・・・。
「ああ・・・、多分な。」
祖父は少し考えるようにしてから答えてくる。
「人間だって、そうだろ?」
「ん?」
「人間もその竹と一緒だ。いつかはその役割を終える。
つまりは、死んだり枯れたりするんだ。」
「・・・・・。」
「哲司も、徳川家康って知ってるだろ?」
「う、うん・・・。名前だけは・・・。将軍さんだったんでしょう?」
「あははは・・・、将軍さんか・・・。」
「ん? 違うの?」
哲司は、詳しい事は分からない。
「いや、哲司の言うとおりだ。
江戸幕府というのを開いて、以後300年続いた江戸時代を作った人だな。」
「・・・・・・。」
「その竹が竹笛になるってのは、人間で言えば徳川家康になれるかどうかってことなんだ。」
「ん?」
哲司は祖父の言う意味が分からない。
「いいか・・・、トラは死んで皮残し、人は死んで名を残すって言ってな・・・。」
「?」
哲司は、ますます分からない。
「トラは死んでも、あの綺麗な文様の皮を残す事が出来る。
人は死んでも、大きなことを成し遂げるとその名が歴史に残るってことだ。」
「ふ、ふ~ん、そうなんだ・・・。」
「だってそうだろ?
江戸時代の人なのに、今の哲司にもその名前が知られている。
それって、凄い事だろ?」
「そ、そうか・・・。」
「もう何百年も前に生きていた人なんだ。
それでも、日本の歴史を語るには、なくてはならない人物になっている。
それだけ偉大な人だったってことだな。」
「う、うん・・・。」
「で、でもな・・・、その家康の名前がそれだけ有名になったのも、もちろん江戸幕府を作ったという歴史的な功績があるからなんだが、その江戸幕府が300年もの間、つまりは3世紀も続いたって事があるからなんだ。」
「さ、300年も?」
「ああ、そうだ。
もちろん、その間家康が生きていたと言う事じゃない。
つまりは、その子孫が、その家康の知恵を脈々と伝え続けた結果なんだな。」
祖父の声が淡々と続いてくる。
(つづく)