第8章 命が宿るプレゼント(その42)
「う、うん・・・分かった。」
哲司はそう言って縁側へと行った。
午前中にタライで洗った竹を新聞紙の上に並べていた。
「お爺ちゃん! 転がすって?」
哲司が訊く。
行けば分かるとは言われていたが、傍に来て見ても、やはり「転がす」という意味が理解できなかった。
「竹を少しだけ転がすようにしてみな?」
「ん?」
「転がしたか?」
「うん。」
「だったら、その下の新聞紙をよく見てみろ。」
「新聞?」
「ああ・・・、濡れた痕があるだろ?」
「ああ・・・、ある。」
「その痕の無いところへ転がせば良いんだ。
つまりは、竹が一方に反らないようにするためだ。
満遍なく全体を乾かすってことだ・・・。」
「ああ・・・、そうなんだ・・・。」
「1本1本、ちゃんと確かめて転がしておいてくれ。」
「う、うん・・・分かった。」
哲司は嬉しくなる。
何となく、竹笛作りに自分も参加できているような気分になったからだった。
「その竹たちも喜んでいるだろう。
哲司の手で、これから第二の人生を踏み出せるかもしれないんだしな・・・。」
祖父は、台所から哲司のすることをじっと見ながら言って来る。
「ん? 第二の人生って?」
「つまり、その竹たちは、もうすぐ大地に戻る予定だったんだ。
枯れて、地面に落ちていたんだからな。」
「・・・・・・。」
哲司は、言われている事が飲み込めない。
「そうだな、1年も経てば、腐って大地に吸収されていく。
そして、その場に生息する竹の栄養分になる筈だったんだ。
つまりは、後輩達の、子孫達のために役立つようにな・・・。」
「・・・・・・。」
「それなのに、偶然なんだが、哲司が竹笛を作りたいと言った。
で、爺ちゃんがそうした竹を拾い集めてきた。」
「・・・・・・。」
「そして、今は、その竹笛になるために、そうして哲司の手で洗われて今度は干されている。
それで、歪が出なければ、竹笛になれる可能性がある。」
祖父は、洗い物をしながら遠くの哲司に離しかけてくる。
(つづく)