第8章 命が宿るプレゼント(その41)
「そ、それって、キャンプみたいな?」
哲司は、そのイメージしかない。
「ああ・・・、それに似てるかな?
ただし、違うのは、それだけ追い詰められた状況でそれが出来るかどうかだ。」
「ん?」
「キャンプは、事前にそうした準備をしてから行くだろう?
テントも食料もそれなりに揃えていくだろ?」
「う、うん・・・。」
「でもな、地震なんてなものは、来るぞっていうことすら分からないんだ。
だから、そうして事前に準備なんてひとつも無い状況だ。
そうした状況でも、ちゃんと生きられるかどうかなんだ・・・。」
「・・・・・・。」
「人間は、物が欲しいときやサービスを受けたいとき、常にお金と言う価値でそれを捉える。
お金があれば、なんでも手に入るからな。
でもな・・・、地震や風水害に遭ったときって、そのお金が通用しない場合がある。」
「ど、どうして?」
「だから言ったろ? コンビニに行っても、商品が無いんだ。
握り飯もなければ、弁当も無い。水も無い。ジュースも無い。
そんな状況で、いくら金を持っていたとしても、何の役にも立たないだろ?
まあ、せいぜい火を起こす時の炊きつけぐらいにしかならない。」
「そ、そっか・・・。」
「だから、それまでも価値観がまったく通用しなくなる。
つまりは、金と引替えに他人様から何かを得られるってことが出来なくなるんだ。
だったら、もう、何でも自分で何とかするしかなくなるだろ?」
「・・・・・・。」
そう言われても、哲司は「そうだね」とは言えない。
やれる自信がなかったからだ。
「今の子は、キャンプに行っても自分で飯を炊くことすら出来ない。
仮に、米も水もあっても、それをどうすれば良いかも知らない。」
「ぼ、僕だって・・・。」
「だろ? だからこそ、ここではできるだけ自分で何でもやってみて欲しいんだ。
竹笛を作ることも大切なんだが、そうした日常の生活を自力でやっていくことはもっと大切なことなんだ。」
「だ、だから・・・、おにぎりも、なの?」
「ああ・・・、そうして、自分で作ってみることで、その価値が改めて分かるようになる。
単に、幾らで買えるかという貨幣価値だけじゃなくってな・・・。」
祖父は、そう言って哲司の頭を撫でてくれる。
「さらに言えば、哲司が、その握り飯を丸子ちゃんのためにって・・・。
つまりは、他人のために自分が出来ることをするって言ってくれた事が嬉しかったな。」
「・・・・・・。」
「さあ、竹を転がしてきてくれ。」
祖父は、「これでこの話は終わりだ」とでも言うように話を切り替えてくる。
(つづく)