第8章 命が宿るプレゼント(その38)
「そういうことなんだ。人間は・・・。」
祖父は、哲司の疑問に直接は答えてこなかった。
「ん?」
「つまりは、失ってみて、初めてその有難味を知るってことだ。
だから、冷蔵庫や洗濯機、自動車や新幹線・・・。
そうしたものがごく当たり前のように感じるってのが、ある意味では人間の弱点になる。」
「弱点?」
「ああ・・・。
あの阪神大震災でも、大阪は殆ど影響を受けなかった。
いわゆる直下型地震だったからな。」
「そ、そうなんだ・・・。」
「壊滅的な打撃を受けた神戸とその大阪は電車で行けば僅か20分ほどの距離だ。
車でも30分あれば行ける。」
「そ、そんなに近いの?」
「ああ、それなのに、その電車も道路も使えなくなった。
電話も通じなくなった。
だから、その僅かな距離にいた人達にも、なかなか神戸の状況が分からなかった。」
「・・・・・・。」
「大阪も揺れはした。
それでも、家が倒れたり、高速道路が倒れたりするようなことはなかった。
だから、“ああ、今の地震、結構揺れたよね”程度に思ったそうだ。」
「そ、そうなんだ・・・。」
「そのうちに、次第にテレビなどで神戸の状況が分かるようになってくる。
もちろん、ヘリコプターからの映像だけだったんだが・・・。」
「ああ・・・、思い出した・・・。」
哲司の脳裏にテレビで見た神戸の映像が浮かび上がった。
まるで、映画かアニメの映像を見ているような気がしたものだった。
とても、それが現実だとは思えなかった。
「あの時、神戸の街はあちこちで火事が起きていた。
倒れた家が、次々に燃えて行っていた。」
「・・・・・・。」
「爺ちゃんは、あの映像を見て、戦争時代を思い出したよ。」
「えっ! 戦争時代?」
「ああ・・・、まるで空から何発も爆弾を落とされたのと同じように見えたからなあ・・・。」
「・・・・・・。」
「戦争では、大勢の人が亡くなった。
爆弾にやられた人もいたが、それによって起きる火事で死ぬ人も多かった。
で、でもなあ・・・。あのときには、皆に一定の覚悟があった。」
「か、カクゴって?」
「そ、そうだなぁ・・・。いつ、空からアメリカ軍に爆弾を落とされるか分からないって思っていたんだ。
だから、そのための防御も考えていた。
哲司は、防空壕って聞いたことがあるか?」
祖父の顔が真剣になってくる。
(つづく)