第8章 命が宿るプレゼント(その37)
「ぷぅっ! そ、そうだね・・・。」
哲司も噴出す。
そう言えば、テレビで見たような気がしたからだ。
「でもな、本当のことだ。
爺ちゃん、あの言い方を聞いて、真実を言っとるって感心したもんだ。」
「・・・・・・。」
「な、そうだろ?
テレビだって、電気が無けりゃあ、何の役にも立ちゃあしない。
冷蔵庫もそうだし、洗濯機だってそうだ。
クーラーだってそうなるな。
車だって、ガソリンが無けりゃあ、動きはしない。」
「う、うん・・・。」
「電気やガソリン、そして、水道やガスが無くなったら、人間ってのは弱いもんだ。
それを示したのが、あの阪神大震災だ。」
「ああ・・・、あれは、凄かったねぇ・・・。」
つい2~3年前のことだ。
哲司もテレビで毎日のように見た。
「哲司もテレビで見たろ?」
「う、うん・・・。」
「大きな地震が起きると、絶対に壊れはしないだろうって思えるコンクリートのビルだって、あんなに簡単に壊れてしまう。
そして、あれだけ建物が壊れてしまうと、そうした電気、ガス、水道っていうものがすべて止まってしまう。」
「・・・・・・。」
「あの時、近くの他府県から真っ先に届けられたのが、水と毛布だった。」
「えっ! 水?」
哲司は意外だった。
「ああ、そうだ。
人間、10日ぐらいは何も食べないでも生きてられるんだが、水が無いと3日持たないって言われる。」
「えっ! そ、そうなの?」
「ああ・・・、人間の身体の7割は水分でできているからな。
水を飲まないと、身体を維持できないんだ。
それなのに、今哲司が言ったように、人間、普段はそんなことを考えちゃあいない。
つまりは、何も考えないでも、水分ってのは与えられるものって思ってるんだ。」
「・・・・・・。」
「今だったら、どこのレストランに行っても、最初にはコップに入った水が出されるだろ?」
「う、うん・・・。」
「それを飲んで、美味しいって思うか?」
「ううん・・・。そ、それに、飲まない。」
「そんな扱いを受けるコップ1杯の水なんだが、ああして、大震災に遭った人達からすれば、それはまさに命を繋ぐ水になる。」
「命・・・。」
哲司は実感が伴わない。
(つづく)