第8章 命が宿るプレゼント(その35)
「おう! そうだ!」
自分が飲み終わったコップを手にして台所の洗い場へ行った祖父が大きな声を出す。
「ん? どうかした?」
哲司も、残っていたアイスクリームを口の中へと駆け込むようにして訊く。
「10時のおやつのとき・・・、哲司、ここに何を入れた?」
祖父が冷蔵庫を指差して言う。
「う~んと・・・、トマト。」
「そ、そうだったよなぁ。
あの時、井戸水で冷やしたトマトを食ったろ?」
「う、うん・・・。」
「そん時、哲司、冷蔵庫で冷やしたら良いのにって言ってたよな?」
「う、うん・・・。で、爺ちゃんが1個だけ冷蔵庫に入れたんだよね。
夜に食べる僕の分だって・・・。」
「そうだ。そう言ってたよな。少し早いが、今食ってみるか?」
「う、うん・・・、良いよ。」
「ほい。じゃあ、これだ。」
祖父が冷蔵庫からプチトマトを出してくれる。
そして、それと引き換えるようにして、哲司が食べ終わったアイスクリームのカップを引き取っていく。
「食べるよ。」
一応は、哲司はそう声を掛ける。
「ああ・・・、食ってみな。」
「頂きま~す。」
哲司は、そう言ったかと思うと、そのプチトマトにかぶりついた。
午前中に食べた美味しさのイメージが口の中に戻ってきていた。
「ん?」
哲司はかぶりついた姿勢のままで動けなくなる。
「どうだ?」
「こ、これって、朝のトマトと同じだよね?」
「ああ、そうだ。そのうちの1個を入れてたろ? 哲司も見てたろ?」
祖父は、哲司の反応を予測していたかのように、にやりと笑って言う。
「う~ん・・・、ちょっと味が違う。」
哲司は、自分の歯型が付いたトマトの残り部分を見ながら言う。
「だろ?」
「ど、どうして?」
「味は変わってないんだが、食感が違うんだ。」
「しょ、ショッカンって?」
哲司は、首を傾げるようにして訊く。
(つづく)