第8章 命が宿るプレゼント(その33)
「じゃあ、お母さんなんかも、そのアイスキャンデーを食べてたの?」
祖父がそう言う以上、きっとそうなんだろうと哲司は思った。
「いや、うちでは買い食いはさせてなかったしな・・・。
少し可哀想な気もしたんだが、そうそう無駄遣いは出来ない事情もあったんでな。」
「だ、だったら・・・。」
「そうだなぁ、アイスクリームもアイスキャンデーも、うちに冷蔵庫が来てからだな。
そう、哲司のお母さんが小学校の5年か6年の頃だった・・・。」
「・・・・・・。」
そう聞いた哲司は少し複雑な気持になる。
そうか、お母さんが今の僕ぐらいの時には、家に冷蔵庫なんてなかったんだ・・・。
そう思うだけで、時代が違うって凄いことなんだと思ってしまう。
「哲司は、三種の神器って知ってるか?」
コップのお茶を飲み干した祖父が言ってくる。
「サンシュのジンギ?」
「ああ、もともとは、天皇家に伝わる鏡、玉、剣という3つの宝物を指した言葉だったんだが、そのうちに生活必需品としてのシンボル的な電化製品の意味として使われるようになったんだ。」
「ん?」
「お母さんが生まれたのが昭和35年だ。
今風に西暦で言えば、1960年になる。
と、言っても、哲司にゃあどんな時代だったかって分かるまいが・・・。」
「・・・・・・。」
確かに、哲司にはイメージできない。
「その頃、日本は戦後の復興期をほぼ終えていてな。
終戦が昭和20年だから、それから15年たっていたからな。
で、その当時に、これが家にあれば平均以上の生活だと言われていたのが、白黒テレビ、洗濯機、冷蔵庫の3つだったんだ。」
「白黒テレビ?」
「そう、当時はカラーテレビってのはまだなかった。
テレビと言えば、白黒テレビだった。
そう、丁度、カラー写真と白黒写真の違いのようなものだった。」
「へぇ~・・・。」
哲司は、アイスクリームを食べる手が止まる。
スプーンを咥えたままで祖父の話を聞く。
「洗濯機だってそうだ。今みたいに自動的に脱水するものじゃあなくって、洗濯機についていた絞り機でその都度人の手で絞っていたんだ。」
「絞り機?」
「そうだなぁ、ローラーみたいな装置が付いていてな。
その間を洗濯した衣類を通すことで絞っていたんだ。」
「へぇ~、不便だったんだぁ・・・。」
「いや、そう言えるのは、哲司が今の便利さを知っているからで・・・。
当時にすれば、それを使えるってことが、ひとつのステータスだったんだ。」
祖父は、そうした話を楽しむかのように言ってくる。
(つづく)