第8章 命が宿るプレゼント(その32)
「うん、分かった。」
哲司はそう返事をする。
具体的に何をどうすれば良いのかは分っていないが、祖父が「触ってみれば分かること」と言っている以上、そうなのだろうと思う。
で、それでも分からなければ、また訊けば良いことだ。
「哲司、やっぱりアイスクリームは好きか?」
必死の形相で食べている哲司を見てなのか、祖父が訊いて来る。
「う、うん・・・。で、でも・・・、どうして?」
「いやな、そいつで最後なんだ。」
「ん? これで最後?」
「ああ・・・、だから、哲司がどうしてもそれが食べたいと言うのであれば、明日にでも買いに行かないと駄目かなと・・・。」
「う~ん、べ、別に、そこまでは・・・。
あったら食べるけれど、なかったら困るって物ではないし・・・。」
「アイスキャンデーは?」
「ん? アイスキャンデー? ああ、氷みたいになった奴?」
「そ、そうだ・・・。」
「それでも良いよ。」
「そ、そうか・・・。じゃあ、何年か振りで作ってみるかな?」
「ええっ! 爺ちゃんが作るの?」
「もちろんだ。」
「ヘェ~、作れるんだぁ・・・。」
「哲司は家で作ってもらわないのか?」
「アイスキャンデーを?」
「ああ・・・。誰でも作れるしな・・・。」
「う~ん・・・、買ってもらったことはあるけれど・・・。」
「家では作ってないか。」
「う、うん・・・。」
「そっか・・・、作ってないか・・・。」
祖父は、どういう意味なのか、何度か頷きながら言ってくる。
確かに、単なる氷ではある。
だから、ジュースか何かを製氷器に入れて冷凍庫に入れておけば出来そうな気はする。
それでも、哲司の感覚からすれば、やはり買ってくるものという印象が強かった。
「昔は、アイスキャンデー屋さんってのが来てたんだがなぁ・・・。」
「ん? アイスキャンデー屋?」
「ああ、昔は、各家庭に冷蔵庫なんてなかったからなぁ・・・。
だから、業務用の冷凍庫で作ったキャンデーを自転車の後ろに設置した冷蔵ボックスに入れて売りに来てたんだ。」
「へぇ~、そんなお店があったんだ・・・。」
「まあ、店って言うより、個人業なんだろうけれどな・・・。
それも、冷蔵庫の普及で立ち行かなくなったんだが・・・。」
祖父は、お茶を飲みながら、少し遠い目をした。
(つづく)