第8章 命が宿るプレゼント(その31)
「う~んと・・・、じゃあ・・・、これにしようかな?」
哲司は、不思議な高揚感があった。
いつもは、こうした衣類は風呂上りと朝に準備される。
それでも、こうして自分でそれを選ぶような事はなかった。
そう、いつも、母親任せである。
「はい、ここに出してあるからね。」
そう言われて置かれた衣類をただ身に着けるだけだった。
それなのに、こうして「好きなものにしろ」と言われて箪笥の中から選んでいるのだ。
大したことではない筈なのだが、哲司には初めて経験をするようなワクワク感があった。
「こ、これでどう?」
哲司はパンツを穿いて、マンガの絵が描かれたTシャツを頭から被って祖父のところへと行く。
「あははは・・・、良いじゃないか! ほれ、これを穿いて。」
祖父は楽しそうにしながら、哲司が脱いでいた半ズボンを手渡してくる。
「ああ・・・、そうだね。ズボンも履かなきゃね。」
哲司は、手渡された半ズボンに脚を通した。
「じゃあ、おやつにアイスクリームでも食べるか?」
祖父は冷蔵庫を開けて言ってくる。
「う、うん・・・。食べる。」
哲司は、そう言って、目の前のテーブルに着く。
「ほれ、・・・。」
祖父はカップに入ったアイスクリームとプラスチックのスプーンを出してくれる。
「ん? 爺ちゃんは食べないの?」
哲司は、テーブルの上に自分のアイスクリームしか出されていないことに気が付いて言う。
「ああ・・・、爺ちゃんは、冷たいお茶にする。」
「ど、どうして?」
「う~ん、爺ちゃんぐらいの歳になるとな、もうあまり冷たいものは食べようとは思えなくなるんだ。
良いから、哲司は食べろ。」
「ふ、ふ~ん・・・、そうなの? じゃあ、頂きます。」
哲司はそう言ってカップの蓋を取った。
そして、スプーンをアイスクリームに突き立てるようにする。
「それからな、それを食べてからで良いから、朝、新聞紙の上に拡げておいたあの竹、少し転がすようにしておいてくれ。」
「ん? 転がすって?」
哲司は、食べながらも、縁側に並べた竹の方に視線を向ける。
「な~に、触ってみれば分かる事だ。」
祖父は、コップに入れた麦茶を飲みながら言ってくる。
(つづく)