第8章 命が宿るプレゼント(その27)
「う、うん・・・。」
哲司は否定しない。
「で、でも、面白い話だからでもないような・・・。」
哲司は、慌ててそう補足する。
「そ、そうだよなぁ・・・。爺ちゃんだって、特に何か面白いことを言おうとは思ってなかったしな。
ただ、哲司が知らない昔の話をしてたか・・・。」
「う、うん・・・、きっと、だからなんだろうね?」
「昔の事ってのに、哲司は関心があるのか?」
「う~ん、それはよく分からない。
ただ、“へぇ~! そうだったんだぁ”ってビックリすることばかりだし・・・。
それに、学校じゃ教えてくれないことばっかしで・・・。」
「ああ・・・、なるほどなぁ・・・。」
「だから、それで? それで? って続きが知りたくなる。」
「う~ん・・・、そっか・・・。」
「学校じゃ、皆が見てる漫画なんかは、見てないと話ができないんだ。
今日は、こうこうで面白かったよねって話になるから・・・。
でも、こうしてここにいると、そんなことも気にしないで良いし・・・。」
「ほう、子供の世界も大変なんだ・・・。」
「う、うん・・・。だから、塾に行ってる子なんて、その漫画をビデオに撮って貰っているんだって・・・。」
「へぇ~、それこそ、爺ちゃんにしたら驚きだ。
そこまでして、皆に合わせる必要もなかろうって思うんだが・・・。」
「ぼ、僕もそう思うんだけれど・・・。
で、爺ちゃんに教えてもらった話って、学校でも僕だけしか知らないことでしょう?
だからかも知れない。」
「本当は、爺ちゃんが話しているようなことは、哲司のお父さんやお母さんが哲司にちゃんと教えておくべきことなんだろうって思うんだ。
それをして無いから、哲司が聞くと、びっくりすることばっかしになる。」
「・・・・・・。」
哲司は、答えられない。
ただ、こうして祖父から聞かされる話でも、家で両親から聞くのであれば、きっとそこまで関心を持たなかったようにも思うのだ。
やはり、いつもとは違う環境で、いつもは一緒ではない祖父から聞くから素直に聞けるような気がしないでもない。
「家で、お母さんからこの行水の話を聞いたとしても、何とも思わなかったように思うんだ。」
「ほう・・・。」
「でも、ここだと、こうして実際に行水ってどんなものって教えてもらえるじゃない?
だから、本当に面白いって思う・・・。
行水が、こんなに気持が良いものだって初めて知ったし・・・。」
「そ、そうか・・・。気持が良いか?」
「う、うん・・・。プールとお風呂の中間みたいだし・・・。」
哲司は、そう言ってタライの中で寝そべってみる。
(つづく)