第8章 命が宿るプレゼント(その26)
「やっぱり、テレビか?」
祖父は、食事中にテレビを見ていることをそう指摘する。
「う~ん・・・、それもあるけど・・・。」
哲司は、自分が両親と話さないのは、別にそれだけが理由ではないような気もする。
「いやな、お母さんたちがいた昨日まではそうだったろ?」
「・・・・・・。」
哲司はその場面を思い出す。
確かに、親戚が泊まっていた昨日までは、この家でも食事中にテレビが点いていた。
別に、子供の哲司に気を遣ってくれたというのではなく、日頃の生活習慣がいつの間にか出たということなのだろう。
かと言って、そこに映し出されている番組を見たかったからというものでもないようだ。
適当にチャンネルを回して、適当な画面が出ると、それをそのまま流していた。
よくよく考えれば、哲司の家でもそうだった。
哲司が自分で点けることもあったが、学校から帰ってきたとき、そして友達と遊んで帰ってきたとき、いつもテレビは点いていたように思う。
つまりは、母親が見ていたのだろう。
かと言って、その前にじっとしているようでもない。
「ああ・・・、今は、どこの家でもそうしているんだなぁって思ったんだ。」
祖父は、それに気が付きながらも、敢えて何も言わなかった理由をそう説明する。
「これも、時代なんだと・・・。」
祖父の口から溜息のようなものが聞こえた。
「それでもな、爺ちゃん、嬉しかったんだぞ。」
「ん? 何が?」
哲司が思わず訊く。
「昨日の午後からは、この家には哲司と爺ちゃんだけになったろ?」
「う、うん・・・。」
「それ以来、哲司は自分からテレビを見たいとは言わなかった。」
「ああ・・・、そ、そういうこと?」
「それは、爺ちゃんのことを思ってくれてなのか?」
「ううん、そうじゃない。そうじゃないけれど・・・。」
「そうじゃないけれど?」
「そうじゃないけれど・・・、僕も見たいって思わなかったから・・・。」
哲司は、自分でそう言いながら、どうしてそうなったのかを不思議に思っている。
「う~ん・・・、そうか、そうだったか・・・。」
祖父は、どうしてか何度か頷くようにして言って来る。
「テレビより、爺ちゃんと話してる方が面白かったのかなぁ・・・。」
哲司は、祖父に言うよりも、自分自身にそう問いかける。
「ん? 爺ちゃんと話すのって、そんなに面白いか?」
祖父の弾んだ声が飛んできた。
(つづく)