第8章 命が宿るプレゼント(その21)
「じゃあ、ここに書き込むだけなのか?」
祖父は、そう言って哲司の頭に手を置きに来る。
「・・・・・・。」
哲司は、そうだよとは言いづらかった。
「でもなぁ・・・。」
祖父は、哲司の頭に置いた手を少し左右に動かしながら言ってくる。
「ん?」
哲司はてっきり「そんなことだから忘れるんだ」と言われるのを覚悟していたから、祖父の口元をじっと見る。
「子供の頭は、いろんなことですぐに一杯になるんだ。
そのことは、哲司にも分かるだろ?」
「う、うん・・・。」
「宿題の事を一旦は覚えても、その後からも、いろんな覚えなきゃいけないことが山ほどに入ってくる。
そうだろ?」
「う、うん・・・。」
「そうするとだ、最初の頃に覚えた宿題の事が、随分と下のほうに追いやられてしまうんだな。」
「・・・・・・。」
そうなのかもしれないと哲司は思った。
それでも、それは言葉にはならない。
「でもな、それは、何も、子供に限った事じゃあないんだ。」
「ん? 大人もってこと?」
「ああ・・・、そうだ。
ただな、大人は、忘れちゃあいけないことと、忘れても良いこととをちゃんと区分してるんだ。」
「・・・・・・。」
「例えばだ。哲司、今日、朝飯に何を食った?」
「えっ! 朝ごはん?」
「ああ・・・、そうだ。」
「ご飯。それに、ヤマメってお魚。美味しかった。」
「そっか・・・。じゃあ、昼飯は?」
「う~ん、おにぎり。たくさん食べたよ。お腹一杯に・・・。」
「うん、そうだったなぁ・・・。
だったらな、1週間前の昼飯は?」
祖父は、そう言ったかと思うと、近くの石に腰を下ろしに行った。
中腰になっているのがしんどくなったようだ。
「そ、そんな前のことは・・・。」
哲司は、答えられない。とても思い出せない。
「そうだな。1週間前に何を食べたかなんてことは、重要なことじゃないからな。
爺ちゃんだって、覚えちゃあいない。」
「う、うん・・・。」
哲司はそう同調したものの、祖父の話がこれで終わるとはとても思えなかった。
(つづく)