第8章 命が宿るプレゼント(その19)
「うん、こうして背中を流してやっても、以前よりは如何にも男の子らしい身体つきになってきた。
子供子供した雰囲気が薄らしいできて、男の子らしい逞しさが付いてきた。」
祖父は、哲司の背中の大きさを測るようにしてタオルを動かしてくる。
「そ、そう?」
「ああ、もちろん、そうでなけりゃあ困るんだが・・・。」
「・・・・・・。」
「ただなぁ、哲司は、自分からなかなか話さなくなっていた。
そんな気がしてな。」
「そ、そんなことは・・・。」
哲司は否定する。
「まぁ、こうして爺ちゃんとふたりだけになってからは、いろいろと話してくれるようになった。
だが、昨日までは、決してそうじゃなかった。
大人ばっかりの中で、少しは萎縮してたのか?」
「ううん・・・、そうじゃないけれど・・・。」
「子供は子供らしく、もう少し、自分から物を言ったら良いのにって思ってな。」
「う~ん、余計な事を言うと、またお母さんに叱られると思ったから・・・。」
「やっぱり、お母さんは煩いか?」
「う、うん・・・。」
哲司は、正直に言う。
「そ、そうか・・・。煩いか・・・。
でもな、それは哲司にちゃんとした男の子になって欲しいって思うからなんだぞ。」
「そ、そうかなぁ・・・。」
哲司は、今の祖父の言葉には同調できなかった。
「だからなのか?」
「な、何が?」
「学校であった事をお父さんやお母さんに話していないってことだ・・・。」
「う~ん・・・、そ、それもあるかも・・・。」
「それもある?」
祖父が手を止めて言ってくる。
「いちいち言わなくっても・・・。必要な事は言ってるし・・・。」
「その、“必要な事”とは?」
「だ、だから・・・、それは、次の参観日がいつだとか・・・。」
「じゃあ、その日に出された宿題なんかのことは?」
「そ、それは、言ってない・・・。」
「どうしてだ?」
「う~ん、そんなこと言わなくっても・・・。やるのは僕なんだし・・・。」
「ほう・・・、じゃあ、宿題は、毎日、ちゃんとやってるんだな?」
「う~ん・・・。」
「どうした?」
「た、たまに、忘れることもある。」
「あははは・・・、そうか、たまにか・・・。」
祖父は大きな声で笑って言う。
(つづく)