第8章 命が宿るプレゼント(その17)
「う、うん・・・。もう随分と前だけれど、家のお風呂が壊れて・・・。
それで、お父さんにお風呂屋さんに連れて行ってもらったんだ。」
哲司は、そのたった1回の経験をどうしてか鮮明に覚えていた。
「ほう? でも、家の近くにそんな風呂屋ってあったかなぁ?」
祖父は、どうにも思い当たらないと言う顔をする。
「ち、近くじゃないよ・・・。バスに乗って、駅のところまで行ったんだし・・・。」
「おう、やっぱりなぁ・・・。で、どうだった?」
「ど、どうだったって?」
哲司は、どう言えば良いのかが分からない。
「だからな、そのお風呂屋さんに行ってみて、どう思ったかってことだ。」
「う~ん、最初は恥ずかしかった。」
「最初だけか?」
「う、うん・・・。だって、パンツも脱ぐんだよ?」
「そりゃあ、風呂なんだしなぁ・・・。」
祖父は、それが当然だという顔をする。
「で、でも・・・、お父さんも一緒だったし・・・。
で、教えてもらったの。」
「な、何を?」
「こうやって、タオルでチンチンを隠すんだって・・・。」
「あははは・・・。そ、そうか・・・、チンチンを隠したか・・・。」
祖父は、どうしてなのか、楽しそうに笑って言う。
「変なの?」
「いや、別に、そういうことじゃないんだが・・・。」
「・・・・・・。」
哲司は、まだ祖父が何かを言いたそうにしたことに気が付いた。
で、じっと祖父の口元を見る。
「そうだなぁ~、今の子は、人前で裸になることを嫌うんだなぁ~。」
「だ、だって・・・。」
「パンツを脱ぐことが恥ずかしいのか?」
「う~ん・・・。やっぱり、チンチンを見られることなのかなぁ?」
「男の子であれば、皆に付いてるだろ? それでもか?」
「う~ん・・・、それはそうなんだろうけれど・・・。」
「良いか? チンチンだって、身体の一部だ。
鼻や耳や口と同じだ。
なかったら困るし、必要だから、皆に付いてるんだ。
それなのに、どうしてチンチンだけを隠すんだ?」
「う~ん・・・。」
哲司は、答えられない。
「第一、隠す必要なんてあるのか?
皆が隠してたか? 正々堂々と、隠さないで入ってた人もいただろう?」
「う、うん・・・。」
哲司は、確かにそうした人もいたことをはっきりと覚えていた。
(つづく)