第8章 命が宿るプレゼント(その16)
「爺ちゃんのこの家でも、風呂を作ったのは昭和40年だ。」
祖父が説明をする。
「昭和40年?」
そう言われても、哲司はピンと来ない。
哲司が生まれたのも「昭和」だが、物心が付いた頃には既に「平成」になっていた。
だからでもないのだろうが、「昭和」と聞くと、何とも昔のことのように感じるのだ。
「じゃあ、それまでは?」
哲司は、「だったら風呂はどうしていたのか?」と思ってしまう。
まさか、年がら年中この行水をしていたわけじゃあないだろうと思う。
冬だってあるのだ。
「庄屋さんの家の風呂を借りに行っていたんだ。」
「ショウ屋さん?」
哲司は、その言葉の響きから、何かを売っている店なのかと思ってしまう。
それでも、それと風呂が繋がらない。
「あははは・・・・。そうだなぁ・・・。庄屋ってのも分からんだろうなぁ・・・。」
祖父がまたまた笑いながら言う。
「まあ、簡単に言えば、今で言う村議会の議長さんみたいなものかな?
つまりは、村の代表者だったんだ。
皆の意見を取りまとめて、行政、つまりは村役場に“こうして欲しい”と言いに行くような役割の家だったんだ。」
「へぇ~・・・。」
そうは言ったものの、哲司にはその実態は分からない。
ただ、何かの店ではないことだけは理解した。
「庄屋さんの家は代々大きくってな。
そこで働く人も多かったんだ。
だから、風呂も大きいのがあった。」
「そのお風呂に入れてもらってたの?」
「ああ、週2回ぐらいだけどな。」
「そ、そうだったんだ・・・。」
哲司は、毎日風呂に入れられているが、昔はそうではなかったんだと知る。
「だからな、そうした風呂が借りられない日だと、こうしてタライで身体を洗ったんだ。」
「ふ、冬でも?」
「ああ・・・、大きな鍋に湯を一杯に沸かしてな、それを入れて、そこに水を加えるんだ。」
「へぇ~・・・。」
「その頃の都会じゃあ、風呂屋ってのがあった。
つまりは、金を取って風呂に入れるという商売だな。」
「ああ・・・、お風呂屋さん?」
「ん? 哲司は、それは知ってるのか?」
祖父は、哲司の口から「お風呂屋さん」という言葉が出たことに驚いたようだった。
(つづく)