第8章 命が宿るプレゼント(その15)
「もちろんだ。」
祖父は、それが当然という顔で言う。
そして、哲司の背中へと回りこんでくる。
「背中流してやろう。」
祖父はそう言ったかと思うと、風呂にあったような桶でそのタライの中の水を哲司の背中に掛けてくれる。
「ああ・・・、気持良い!」
哲司はある種の感激を覚える。
生温い水のようなお湯のようなものなのだが、それを掛けられた後に、その水分がすぐに蒸発するためなのか、何とも爽やかな肌の感覚が残るのだ。
おまけに、その肌を僅かな風が撫でていく。
その点が風呂とはまったく違う。
ここが外だということを改めて思い知らせてくれる。
「だろ? これが、昔からやっていた行水ってもんだ。
今は、節電だのエコだのと声高に言っておるが、昔の人は、こうして自然の力に寄り添うことで、自然と共に暮らしてきたんだ。
それこそ、完全なエコだ。」
「う~ん・・・。」
哲司は、最初に躊躇したことを逆に恥ずかしく思う。
「水も地下水だ。そして、それをこうしてタライに入れてお天道様の下においておくだけで、こんなにも温かくなる。
これが、自然の恵みなんだ。自然の力なんだ。
まあ、哲司の家じゃあ、こんなマネは出来んだろうが・・・。」
「う、うん・・・。そ、そうだねぇ・・・。」
哲司もその点は頷ける。
ここが、祖父の家だから出来ることだ。
とても、今の哲司の家では出来ることじゃあない。
第一、そんな恥ずかしいことが出来るかと思ってしまうだろう。
「哲司のお母さんも、子供の頃にゃあ、こうしてここで行水をしとったんだが・・・。」
祖父が遠い昔を思い出すように言う。
「えっ! お母さんも?」
「ああ、そうだ。姉妹でな。ワイワイ言いながら、ここで1時間ぐらい遊んどった。」
「女の子なのに?」
「あははは・・・。そうだなぁ・・・。昔は、男の子も女の子も、同じようにしていたがなぁ・・・。」
祖父は、哲司か男女の区別にそこまで拘ることが不思議に思えるらしい。
少し首を傾げるようにして言ってくる。
「まあ、それだけ、女の子の成長が早くなったってことかな?」
「ん?」
哲司は、祖父がそう結論付けたことが分からなかった。
(つづく)