第8章 命が宿るプレゼント(その14)
祖父は、そのタライの水に手を突っ込んでいた。
「ん?」
哲司は訳が分からない。
「ここで服を脱げ。それで、この中へ入るんだ。」
「ええっっ! 服を脱ぐの? ど、どこまで?」
「パンツも全部だ。スッポンポンになれ。」
「・・・・・・。」
さすがに、哲司は周囲を見渡す。
「大丈夫だ。他には人はおらん。爺ちゃんだけだ。」
「・・・・・・。」
「それに、男の子だろ? なんも恥ずかしがることはない。」
「う、うん・・・。」
哲司はTシャツを脱いだ。
そして、半ズボンとその下に穿いているパンツを一緒に下ろした。
そして、急いでタライの中へと入る。
「そこに座れ。」
祖父が言って来る。
哲司の気持も分かっているのだろう。
哲司は言われたとおりにする。
「ああ・・・、温かい!」
哲司は正直驚いた。
風呂じゃないんだし、タライに水が入っているだけだ。
それなのに、まるでお湯を入れたように温かかったのだ。
「どうだ? これが行水ってもんだ。」
「えっ! こ、これが?」
「ああ、そうだ。
昔はな、それぞれの家に風呂なんてなかったんだ。
ガスも電気もなかったんだしな。
その時に、風呂の代わりに入ったのが、この行水だったんだ。」
「へ、へえ~・・・。で、でも、どうしてこんなに温かいの?」
「それはな、お天道様の力だ。」
祖父は、そう言って太陽を見上げるようにする。
「ん?」
そこまで言われても、哲司にはその意味が分からなかった。
「哲司が駐在さんと一緒に出かけてから、爺ちゃん、このタライに井戸水を入れて置いたんだ。
そうしたらな、太陽の光が当たって、水の温度が上がるんだ。
で、こんなに温かくなるんだ。凄いだろ?」
「へぇ~・・・、そうなんだ・・・。まるで、お風呂みたいだね。」
「だろ? だから、昔の人は、こうして夏場の汗を流したんだ。」
「こ、このタライで?」
「ああ、そうだ。」
「お、女の人も?」
哲司は、先ほど祖父が言った「男の子なんだし」と言う言葉と重ねている。
(つづく)