第8章 命が宿るプレゼント(その12)
そのことも、哲司は不思議に思った。
昨日までは、この家に哲司の母親もいた。
母親ばかりではない。叔父や叔母たちもいた。
皆、この冷蔵庫を誰に気兼ねすることなく平気で開け閉めしていた。
まるで自分の家の冷蔵庫のようにだ。
別にそれに習ったわけではなかったが、哲司も同じように勝手に開けて中のアイスクリームを出して食べたりもしていた。
それなのに、こうして祖父とふたりだけになると、そうしたことがどこか悪いことをしているように思えてきたのだった。
「ん? どうした? そんなところで・・・。
ああ・・・、喉が渇いたか?
そうだな、麦茶でも飲むか・・・。」
同じようにして裏口から入ってきた祖父は、哲司の様子を見てそう言った。
「う、うん・・・。」
哲司は嬉しくなった。
何も言わなくっても、祖父はちゃんと分かってくれる。
そう思ったのだ。
祖父は冷蔵庫を開けて、中から麦茶が入った冷水器を取り出してくる。
そして、コップをふたつ並べて、それぞれに半分程度入れる。
「飲んでも良い?」
哲司が手を伸ばしかける。
「ん、ちょ、ちょっと待て・・・。」
祖父が哲司の動きを止める。
そして、台所から食塩のビンを持ってくる。
「ん? それって、お塩だよ?」
「分かってるよ。これをな、ちょっと入れるんだ。」
祖父は、そう言ったかと思うと、並べたコップの上から持って来た食塩をひとふりした。
そしてスプーンでそれを混ぜる。
「よし、飲んでみな。」
祖父が言う。
「ん? 少し、塩っ辛い。海の水みたい。」
哲司は素直な感想を言う。
「あははは、そうか、海の水みたいってか・・・。」
祖父は、哲司が飲んだのを確認してから自分もそれを飲んだ。
「どうして、お塩なんか入れるの?」
哲司が訊く。
「ほら、こんなに汗かいてるだろ?」
祖父の手が、哲司の額の汗を拭いに来る。
(つづく)