第8章 命が宿るプレゼント(その10)
「誰かのために、何かをする。
それが、生きるってことだ。」
祖父は、まるで「これが正解だ」とでも言いたげだ。
「だ、誰かのために・・・。」
哲司は、どこかで聞いたフレーズだと思った。
(そ、そうだ! あのお婆さんが言ってたんだ・・・。)
お婆さんは、丸子ちゃんのために生きていたいと言っていた。
「でもな、哲司・・・。」
祖父は前を行く哲司に言って来る。
「ん? なに?」
「自分から言い出したことだ。約束だけは守れよ。」
「約束?」
哲司は、誰かと約束をした意識はなかった。
「だから、握り飯のことだ。それを丸子ちゃんちに持っていくことをだ。
男が一旦口にしたことだ。
それだけの重みはある。」
「う、うん・・・。ちゃんとするよ。」
哲司は、改めて自分にそう言い聞かせる。
「ああ・・・、それとな。」
祖父が何かを思い出したように言う。
「ん?」
哲司は足を止めて振り返る。
祖父が押す自転車が停まったように思えたからだ。
「さっき、丸子ちゃんちを出てくるとき、ヘルパーさんが来てたろ?」
「う、うん・・・。」
「細かいことを言いたくはないんだが、ヘルパーさんが来たら、すぐに帰って来いよ。」
「えっ! ど、どうして?」
「う~ん・・・、ヘルパーさんのお仕事の邪魔になるからだ。」
「じゃ、邪魔? 僕は、そんなことしないよ。
何だったら、できることはお手伝いするし・・・。」
哲司は、どうしてそう言われるのか理解できない。
「い、いや・・・、哲司が邪魔をするってことじゃなくって・・・。
子供が傍にいるってことが、ヘルパーさんの仕事の邪魔になるんだ。」
「ど、どうして?」
哲司は納得できない。
「う~ん・・・、それは、もう少し哲司が大きくなったら分かってくることだ。
だから、今は言わない。
ただな、そのことだけは、爺ちゃんと約束してくれ。
ヘルパーさんが来たら、必ずすぐに“さよなら”って言って帰ってくるんだ。
良いな!?」
祖父は、哲司の顔を見つめるようにして言ってくる。
(つづく)