第2章 奈菜と出会ったコンビニ(その25)
「まさか・・・、そんなこと・・・・。」
哲司はそう言いながらも、街角で「モデルをやりませんか」と若い女の子に声を掛けている怪しげな男達を何度か見たことを思い出す。
「あんなのに引っかかる子は相当な馬鹿だ」と思って通り過ぎるものの、やはり新聞などの記事になるようなことも間々あると聞く。
つまりは、その甘い言葉に乗ってしまう女の子もいるということなのだ。
「でも、それが事実であれば、立派な犯罪ですよね。
だったら、相手のことはある程度絞れるんじゃないんですか?
まあ、個人の名前までは特定できなくても、そのコンクールを主催しているところに聞けば、本当にそのような事があったのかどうかぐらいは分るでしょう?
それに、その予備審査にも、何人もの参加者がいた筈ですし。」
哲司は法律を勉強したことはないが、常識的には誰でもそのように考えるだろうと思う。
「それがですね、あの子が申し込んでいたコンクールを主催している事務所に聞くと、そんな予備審査ってのはやっていない、と言うんです。
でも、こうこうで、とその時のことを言うと、それはうちの人間じゃありませんよ。
きっと、誰かに騙されたんですな。そんな答えしか返ってみないのです。」
「じゃあ、その時に一緒にその予備審査なるものを受けに行った他の女の子達は?」
哲司は、その子たちがどうなったのかも重要ではないかと思う。
もし、奈菜と同じようなことになっているとすれば、もうこれは警察に訴えるしかないだろう。
「いえね、それがひとりだったようです。」
「それだったら、その時点でおかしいと気がつきませんかねぇ。」
「それが、車で迎えに来たと言うのですよ。
事前に携帯電話に電話があって、予備審査の参加者にひとりだけ欠員が出来たから、急なのだが、これから迎えに行くので参加しないか、という話だったようです。」
「ほう。」
哲司は思わずそう洩らした。
相手が最初から騙すつもりなのであれば、非常にうまい作戦だと変なところで感心をさせられる。
「あの子は慎重な子です。チャラチャラしたことは嫌いです。
ですが、本当に親しい友人にしか教えていない携帯電話の番号を知っていたし、申し込んでいたプロダクションの名前を名乗ったので、そのまま信用したらしいのです。」
「それで・・・」
「その車の中で、ジュースをくれたので飲んだというのです。
それから先の記憶が無いんです。」
マスターは、そう言って、悔しそうな顔をした。
「その後、気がついたら、ホテルかどこかのベッドの上だったそうです。
その時の状況は、言わなくてもご想像していただけますよね。」
マスターのは両肩を落とすようにして、そのまま下を向いてしまった。
(つづく)