第8章 命が宿るプレゼント(その7)
「ああ・・・、そ、そうだね。」
哲司は焦る。
「だからな、この小屋の前を過ぎたら、必ずこの小川に沿って歩くようにするんだ。
そうすれば、さっきの橋を見落とさないで済むだろう。」
「う、うん・・・、わ、分かった・・・。」
そうは言ったものの、哲司は次第に自信を失いつつあった。
「まあ、何でも、何度か失敗をして覚えるもんだ。
失敗を怖がっちゃあいけない。
もし、さっきの橋が分からなくなったら、必ずこの小屋の前に戻ることだ。
それさえすれば、こんなところで道に迷うこともない。」
「・・・・・・。」
「良いか、迷ったら戻ってくるんだ。そのことを忘れるな。
哲司だったら大丈夫だ。」
「・・・・・・。」
哲司は、祖父が激励してくれているんだとは思う。
「でな、この小屋の前をもう少し行くと、T字路に出る。」
祖父は、また自転車を押して行く。
哲司は、小屋もそうだが、その後ろに立っている大きな木を見上げるようにする。
何とも逞しく見えたのだ。
「ここが、さっき言ったT字路だ。
これを右へ行くと、村役場がある大きな道に出る。」
「役場?」
「都会で言えば、市役所だ。」
「ああ・・・、そうなんだ・・・。」
「で、これを左に行くんだ。
つまりは、爺ちゃんの家からだと、ここで右に曲がる事になるんだな。」
「ここで・・・、右に・・・。」
哲司の声が小さくなっている。
「これもだ、さっきの小屋が見えるから、間違えないだろ?」
小屋が見えてきたら、今度は右に曲がるんだって覚えれば良いんだからな。」
「う、うん・・・。」
そう言われると、哲司は少しは元気が出る。
確かに、こうしてその場に立ってみると、先ほどの道具小屋と大きな木が右手に見える。
この風景を覚えようと哲司は懸命になる。
「実を言うとな、爺ちゃん、嬉しく思ったんだ。」
また歩き始めて、祖父が言ってくる。
「ん? 何が?」
自転車の横を歩きながら、哲司は祖父の横顔を見上げた。
「いやな、哲司が自分から丸子ちゃんちに握り飯を持っていくって言ったことがだよ。」
祖父は、まっすぐ前を見たままで答えてくる。
(つづく)