第8章 命が宿るプレゼント(その6)
「蛍も良いんだが・・・。」
祖父が苦笑しながら言ってくる。
「ん?」
「この川を渡ったら右に行く。
つまりはだ、爺ちゃんの家から来れば、この橋を渡って農道をまっすぐに行くとさっきの畦道のところへと行くんだな。」
「ああ・・・、そうだった・・・。」
哲司も、今は丸子ちゃんちに行く道を覚えながら戻っているんだということを思い出す。
で、哲司は改めてその農道に続く橋の上に立ってみる。
橋と言っても、決して都会での橋のイメージとはまったく違う。
欄干もなければ、歩道車道の区分もない。
僅か幅1メートルぐらいの小川に掛けられた橋である。
単純に道と道を繋いだだけのように見える。
その下に小川が流れていることを知らなければ、ここが橋になっているとは気が付かないほどだ。
「この橋も、よ~く気をつけていないと、見逃してしまうからな。
ほら、あそこに道具小屋があるだろ?」
祖父がこれから向かおうとしている方向を指差して言う。
「道具小屋?」
「ほら、あの大きな木の下だ。」
「ああ・・・、あれ?」
哲司も小屋らしきものは確認できた。
大きな木に寄り添うようにして、朽ちたような木造の小屋が見えた。
今にも崩れそうな感じだ。
「ああ、近くの人が、あそこに農機具を仕舞っているんだが、あの前を通ってから一つ目の橋がこれだ。
ここから先にも同じような橋が掛かっているんだが、それはまだ別なところへと続いているからな。
この橋を見逃さないようにしないと、丸子ちゃんちには辿り着かないぞ。」
「う、うん・・・、分かった。」
哲司は、改めてその橋の位置を記憶に留めようとするのだが、何しろ、目印となるものがない。
何とも言えない不安だけが残った。
「じゃあ、行こうか。」
祖父は、そう言ってから、また自転車を押して歩いていく。
そして、哲司がその後ろを追いかける。
30メートルぐらい行った所で、祖父が自転車を止めた。
「ん?」
哲司は、また何かあるのかと首を傾げる。
「ほら、ここから見ると、さっきの橋がどこだったか分からないだろう?」
祖父が振り返ってそう言う。
(つづく)