第8章 命が宿るプレゼント(その5)
「まぁ、川と言っても、自然に出来た川じゃないけれどな・・・。」
祖父は、哲司の反応を見ながら言ってくる。
「ん? ってことは?」
「人が作った川だ。つまりは人工川だな。」
「へぇ~・・・。」
「ここだ。」
祖父が足を止めて言う。
そこには、幅1メートルぐらいの本当に小さな川が流れていた。
「これって、人間が作ったの?」
哲司にはとてもそうは思えなかった。
寮際には草が生い茂っていて、川底には大小いろんな石が転がっている。
おまけに緑色の藻のようなものまでびっしりと敷き詰められたように見える。
哲司の感覚で言えば、「人工」と聞けばコンクリートが思い浮かぶのだが、目の前の川はとてもそうは思えない。
「ああ・・・、爺ちゃんが若かった頃だな。」
「コンクリートで?」
「最初はな。」
「ん?」
「よ~く見てみろ。ほら、ここにはコンクリートの基礎が見えるだろ?」
祖父は、どうしてなのか、わざわざ自転車のスタンドを立ててまで、足元の草を手で分ける。
「ああ・・・、そうだね・・・。」
哲司もしゃがみ込むようにして、その部分を手で触って確認する。
「それでも、自然という奴は凄いもんだ。」
「ん?」
「コンクリートで出来た川なのに、10年ほどだったら、この川にも蛍が飛ぶようになった。」
「ええっ! ほ、蛍?」
哲司は、テレビでしか蛍が光って飛ぶのを見たことがなかった。
「い、今でも?」
「もちろんだ。今も飛んでる。夜に来たら、綺麗だぞ。」
「み、見たい!」
哲司は即座にそう言う。
それを見れば、学校の友達にも自慢ができると思った。
「そうか、だったら、また明日の夜にでも連れてきてやろう。」
「ん? 明日? 今夜は駄目なの?」
哲司は一刻でも早く見たいと思う。
「そうだな、もう少し上流の方が沢山いるからな。そこまで行こう。」
祖父は、どうして今夜は駄目なのかについては答えなかった。
それでも、哲司は満足する。
明日の夜の楽しみが増えたからだ。
(つづく)