第8章 命が宿るプレゼント(その4)
「鳥居が2本の杉の間から見えるところの畦道を行くんだ。
1本向こうの畦道まで行くと、あの鳥居が杉の後ろに半分隠れるようになるんだぞ。」
「・・・・・・。」
祖父がそう説明をし、哲司は何とかそれを覚えようと必死になる。
「少し動いてみな。」
祖父は農道の先を指差して言う。
「う、うん・・・。」
哲司が農道を歩いていく。
するとだ。2本の杉の木と鳥居の位置関係からか、10メートルも行くと、鳥居が杉の木に隠れるようになる。
「ああ、そうだ、そうなるね・・・。」
哲司も祖父の言葉を実感する。
「だろ? だから、この畦道はそうして覚えるんだ。
田舎は、都会のように、店や看板が目印になるほどはないからなぁ・・・。」
「・・・・・・。」
哲司は、また鳥居と杉の木に視線を貼り付けたままで祖父のところへと戻ってくる。
改めて、「すごい!」と思っている。
こうした辺りが、家や学校とはちょっと違うのだ。
少なくとも、哲司はそう感じている。
祖父は、哲司にそれこそいろんなことを教えてくれる。
だが、それは単なる「知識の供与」ではない。
つまりは、哲司が納得するようにもう一押しがなされるのだ。
この畦道の覚え方だってそうだ。
学校や家であれば、きっと「ここだ、よ~く覚えておけ」だけで終わっていただろう。
それであれば、哲司も内心「覚えられそうにない」と思ったように、結果としてはこの場所を明確に記憶することは出来なかっただろう。
それなのに、祖父は哲司に覚えるヒントをちゃんとくれたのだ。
それが鳥居であり2本の杉の木だ。
しかも、実際に哲司に農道を歩かせてみて、その違いなり変化を実感させる。
ここまですれば、いくら物覚えが悪い哲司でも、この畦道の位置を忘れることはしないだろう。
「生活の知恵」と言ってしまえば、それはそうなのだろう。
それでも、その知恵を子供の哲司にちゃんと引き継がせるだけの知恵を祖父は持っている。
だから、哲司も、祖父から教えられることには関心が向くのだろう。
「で、この農道をこっちに行くんだ。」
祖父は、そう言ってまた自転車を押しながら歩き始める。
哲司がその後ろを追いかけるようにしてその横に並ぶ。
「この先に小さな川があるんだ。」
祖父はそう言って、手の甲で額の汗を拭った。
(つづく)