第8章 命が宿るプレゼント(その3)
「・・・・・・。」
哲司は、自分が祖父に「一緒に住んであげようか?」と言ったことが夢だったような気がしてくる。
確かに、以前からそう考えていたことではなかった。
ただ、それでも、そうしても良いという気持は今も変らない。
単なる思い付きではない何かが哲司の中にあった。
それでもだ。
祖父が喜んでくれるかと思っていたのに、「いや、それは駄目だ」と言われたことはショックだった。
何か、悪いことを言ったような気がしていた。
だからこそ、黙って祖父の後ろを歩いている。
「いいか、ここがひとつのポイントだ。」
その畦道を渡りきって、少し幅の広い農道に出てから、祖父が自転車を止めて振り返った。
「ん?」
哲司が我に返る。
一体何を考えていたのか覚えてはいなかったが、それでも急速にここがどこなのかが蘇ってくる。
「後ろを見てみろ。
今、この畦道をまっすぐに来たんだ。」
「う、うん・・・。」
哲司も改めてその道を振り返る。
「ここから見える景色をしっかりと覚えておくんだぞ。」
「う、うん・・・。」
そうは答えたものの、哲司には、それを記憶できる自信はない。
この辺りは、見る限りが田んぼだ。
その田んぼも、どこもかしこも同じように稲が風に揺れている。
言い換えれば、どこもまったく同じように見えてしまう。
それなのに、祖父は「ここから見える景色を覚えておけ」と言う。
「そうだなぁ、あの向こうの山に神社の鳥居が見えるだろ?」
祖父はそうした哲司の気持が分かるのだろう。
この場所を記憶できるヒントを教えようとしてくれる。
「ああ・・・、あれだよね?」
哲司は遠くを指差して訊く。
「そうだ。毎年秋祭りが行われる神社だ。哲司も、以前に行ったことがある。」
「ああ・・・、あの神社?」
とは言ったものの、哲司には明確な記憶は殆どなかった。
それほど以前である。
「いいか? あの鳥居が、2本の大きな杉の木の間から見えるだろ?」
「う、うん・・・。」
確かに、祖父が言うとおりに、2本の大きな木の間に赤い鳥居が見える。
(つづく)