第8章 命が宿るプレゼント(その2)
「爺ちゃんも、今の家にずっといたい?」
哲司は、そのタイミングで祖父に訊く。
まともに顔を見ては訊けないような気がした。
「そ、そうだなぁ・・・。それこそ、婆ちゃんの思い出もあるしなぁ・・・。」
祖父は、哲司が予想したとおりの答え方をした。
「あのお婆ちゃんには丸子ちゃんがいるけど、爺ちゃんの家には誰もいない。
それでも?」
哲司の本音としては、「淋しくはないのか?」と言いたかったのだが、どうしてもその言葉は口から出なかった。
「ああ・・・、変らない。」
祖父はきっぱりと言った。
その顔は見えないが、その声からは笑った顔は想像できなかった。
「ぼ、僕が一緒に住んであげようか?」
哲司は、自分でも意識しないうちにそう言っていた。
言ってから、「あれ?」と自分に確かめている。
「ん? そ、そうか・・・。でも・・・、それは駄目だ。」
祖父がそう返してくる。
その一瞬、自転車が止まって、後ろから歩いていた哲司は危うくぶつかりそうになった。
「ど、どうして? どうして駄目なの?」
哲司は、いよいよ以って引っ込みが付かなくなっていた。
「良いから乗れ。」
突然に、祖父は自転車を押していた足を止めて哲司を振り返る。
そして、自転車のスタンドを降ろした。
どうしてそうしたのかは、哲司には分からない。
「良いよ、まだ歩けるから・・・。そ、それに・・・。」
哲司は、ここから自転車に乗せてもらうことに抵抗をする。
「それに?」
祖父は、哲司の顔を見ないようにしたままで訊く。
「お婆ちゃんちに行く道を覚えているんだ。
明日から、おにぎり持って行くんだし・・・。」
「そ、そうか・・・。」
今度は、祖父は何故か、感心したような顔をした。
横顔だけだが、哲司からはそう見えた。
「分かった。じゃあ、このまま行こう。」
祖父は、また自転車を押し始める。
同じように、哲司もその後ろから歩いていく。
暑いのだが、田んぼを埋め尽くした稲の上を渡ってくる風が心地良かった。
とんびが空高く鳴いている。
(つづく)