第8章 命が宿るプレゼント(その1)
祖父は乗ってきた自転車に近寄ってから言ってくる。
「哲司、少し歩くか?」
「う、うん・・・。」
哲司は、どうして祖父がそう言うのか分からなかった。
自転車に乗ってきたのだから、それに乗って帰るのが普通だろうと思った。
「どうだった? 丸子ちゃんちは・・・。」
祖父は自転車を押しながら話しかけてくる。
「う~ん、どうって?」
哲司は、祖父が問うている内容が判然としない。
「大変だろ?」
「う、うん・・・。お婆ちゃん、可哀想だよね?」
「う~ん・・・、そうか、可哀想か・・・。」
祖父は、哲司の言葉をさらに引き出そうとする。
少なくとも、哲司はそう感じた。
「うん。だって・・・、たったひとりだし・・・。」
「でも、丸子ちゃんがいたろ?」
「そ、それは、そうだけど・・・。」
「・・・・・・。」
祖父は、敢えて黙っているようだった。
「そっか・・・、丸子ちゃんが居ても駄目か?」
祖父は、しばらくは黙ったままで自転車を押していたが、畦道に差し掛かったときにそう言った。
ここからは、並んでは歩けない。
「乗るか?」
祖父が自転車の荷台を指差して訊いてくる。
「ううん、いいよ。歩くから。」
哲司は祖父の誘いをそう言って断った。
ひとつには、お婆さんの家への道順を覚えようとしていたからだ。
そして、もうひとつは、祖父との話をこのまま続けたかったこともある。
「お婆ちゃん、あの家にずっと居たいんだって・・・。」
哲司は、祖父が押す自転車の後ろを歩きながら言う。
「そ、そうか・・・。」
「だって、大好きなお爺ちゃんの思い出があるんだし・・・って。」
「そ、そうか・・・、それは爺ちゃんも分かるような気がするなぁ~。」
「・・・・・・。」
哲司は、そう言う祖父の後姿をじっと見ていた。
「何度も一緒に住もうよって言ってるのに・・・。」
そう文句を言っていた母親の顔が思い浮かぶ。
(つづく)