第7章 親と子のボーダーライン(その260)
祖父が時計を見る。
「じゃあ、哲司、あんまし長居をしたら、婆ちゃん、疲れちまうから、そろそろ帰ろうか。」
そう言ってくる。
「う、うん・・・。」
哲司は、もう少しここに居たいような気持もあったが、婆ちゃんが疲れるからと言われては、それに従うしかないと思う。
また、丸子ちゃんが玄関へと走っていく。
「ん?」
哲司は、また誰か来たのかと思った。
「こんにちわ。広岡で~す。」
玄関から女性の声がした。
「おお、丁度、ヘルパーさんが来てくれた。
これ以上はお邪魔だから・・・。
じゃあ、婆ちゃんまたな。」
祖父は哲司を促して立ち上がる。
もう帰るつもりのようだ。
「ああ、いつもありがとうね。気ぃ遣ってもろうて・・・。」
「いやいや、お互い様よ。」
「じゃあ、ボク、また来てよ。待ってるから・・・。」
お婆さんは布団の中から手を伸ばしてくる。
「う、うん。また来るよ。」
哲司は、お婆さんの手を取ってそう言った。
具体的なことは考えられなかったが、どうしてもまたここに来るつもりにはなっていた。
「ああ、こんにちわ。」
広岡と名乗った女性が部屋に入ってきた。
そして、祖父と哲司にも会釈をしてくれる。
「じゃあ、婆ちゃんをよろしく。」
祖父はそう言って、哲司の手を引っ張った。
(つづく)