第7章 親と子のボーダーライン(その259)
「爺ちゃんも、その約束をしたから、痛い治療にも我慢をして頑張ってくれたんだと思うんだよ。
だから、そうして帰って来てくれた爺ちゃんのために、婆ちゃんも懸命に頑張れた。
ありがたいって思ったしね・・・。」
お婆さんは、天井の一点を見つめるようにして言う。
まさに、そこにお爺さんの顔が見えるようにだ。
「・・・・・・。」
哲司は、そんなお婆さんの顔をじっと見るだけになる。
「人間ってのは、誰かのために一生懸命に頑張れるんだね。
だから、こうして、その誰かの傍にいることが大切なんだ・・・。」
お婆さんは、そう言って、今度は丸子ちゃんの身体を撫でる。
と、その丸子ちゃんが立ち上がった。
それまでは、そこにちょこんと正座をしていたのにだ。
「ん? 誰かが来たの?」
お婆さんが問う。
丸子ちゃん、お婆さんの言葉に送り出されるようにして、廊下へと向かっていく。
そして、哲司が入ってきた玄関の方へと走り出した。
「おうおう、丸子ちゃん、お出迎え、ありがとう。」
その声は、哲司を現実に引き戻した。
そう、哲司の祖父だった。
「上がらせてもらうよ。」
玄関先で祖父がそう声を掛ける。
そして、廊下をやってくる足音がした。
「おお、哲司、お利口にしてたか?」
祖父は哲司を見てそう言った。
そして、その横に胡坐をかいて座った。
「婆ちゃん、体調はどうだ?」
「ああ・・・、大丈夫だよ。
それより、いつもいつも丸子に気を遣ってくれてすまんことよ。」
「いやいや、余りもんだし、気にせんでもええ・・・。」
「美味しく頂いてるよ。なぁ、丸子や・・・。」
そう言われた丸子ちゃん、祖父の顔を見て、尻尾を振った。
誰があの握り飯を作ったのかを知っているようだ。
「そうだ、明日からは、この哲司が握り飯を作ってくれるって言うから、また余ったら持って来させるわ。」
「ん? ・・・・・・。」
哲司は、祖父の顔を見ただけだった。
それでも、またここに来れると思うと、その顔はどうしてか笑っていた。
(つづく)