第7章 親と子のボーダーライン(その258)
「ああ・・・、階段の世代って言うの?」
哲司は、ふと聞きかじりの言葉を使った。
「ベビーブーム」という言葉から連想した結果だった。
「う~ん・・・、それも言うなら、団塊の世代って言うんだよ。」
お婆さんが笑いながら訂正してくれる。
「ん? ダンカイ?」
「大きな塊ってことだよ。」
「ああ・・・、そうだったんだ・・・。」
哲司も自分の記憶違いに気が付いた。
それでも、不思議と腹立たしさは感じなかった。
自分でも、珍しいことだと思った。
「ボクは、難しいことを知ってるんだねぇ・・・。」
お婆さんがそう言ってくる。
褒められたような気もするが、間違って覚えていたぐらいだから照れくささもある。
「でもねぇ、そうして子供を産めたってのも、爺ちゃんが死なないで婆ちゃんの元に戻って来てくれたからなんだよね。」
「・・・・・・。」
「そうだろ? 爺ちゃんがあの時、戦争で死んでたら、戦地で死ななくっても、九州の病院で死んでいたら、もう今の息子も娘もこの世に生まれちゃあいないんだ。
だから、婆ちゃんとの約束を守ってこの家に戻って来てくれた爺ちゃんに、ありがとうって言ったんだよ。」
お婆さんは、また目頭に手をやった。
その当時の事を思い出しているのだろう。
「ん? 約束?」
哲司が訊く。
「ああ・・・、一度、九州の病院に行ったって言ったろ?」
「う、うん・・・。」
「そん時、婆ちゃんはもうここに帰りたくはなかったんだよ。
折角会えた爺ちゃんと別れるのが淋しくってね。
だから、“帰らないで爺ちゃんの傍にいる”って言ったんだ。」
「そ、そうしたら?」
「駄目だって・・・。」
「ど、どうして? 折角、会えたのに・・・。」
「爺ちゃんが言ったんだよ。
“ここは軍隊の病院だから、自分だけがそんな我侭は言えない。
それに、家には、守らなきゃいけない田んぼや畑があるだろ?
どんなことがあっても、死なないで必ず家に戻るから、それまでは家で待っててくれ”って。」
「・・・・・・。」
「爺ちゃんにそう言われたら、婆ちゃん、もう言葉はなかった。
だから、“じゃあ、必ず戻るって約束してくれる?”って訊いたんだ。
そうしたら、爺ちゃん“うん、約束する”って言ってくれて・・・。」
「・・・・・・。」
哲司は、また目が熱くなる。
(つづく)