第7章 親と子のボーダーライン(その257)
「う~ん・・・、分かるような分からないような・・・。」
哲司は、自分に正直にそう言った。
「で、戦争が終わって3年ほどが経って、また赤ちゃんが出来たんだ。」
「・・・・・・。」
哲司は、どうしてお婆さんがその「赤ちゃん」に拘るのかが分からなかった。
「それが、今、東京にいる息子なんだよ。
で、1年空いて、次は女の子だった。」
「・・・・・・。」
「いゃあ、嬉しかったねぇ・・・。爺ちゃんが大喜びしてくれたからねぇ・・・。
これで、大人としての責任を果たせたって、爺ちゃん、何度も婆ちゃんを褒めてくれたんだ。」
「・・・・・・。」
哲司には、そうした夫婦の会話は理解できなかった。
ただ、赤ちゃんが出来ることってそんなにも嬉しい事なのかと感心するばかりだった。
「爺ちゃんが言ったんだよねぇ~。」
「な、何を?」
「うん、だからね、爺ちゃんと婆ちゃんが結婚して夫婦になって、そしてふたりの子供が出来た。
これで、爺ちゃんと婆ちゃんが生きた証が後世に受け継がれるって・・・。
お国のためにもなれたって・・・。」
「ん?」
哲司には意味が分からない。
「戦争があったろ?」
「う、うん・・・。」
「それで、大勢の人が死んだんだ。
兵隊さんとして、戦地で死んだ人もいるし、ここいらはそうではなかったけれど、東京や大阪なんていう大きな街じゃあ、空襲で死んだ人が何万人もいたって話しだ。
それに、そう、広島や長崎って所には、原子爆弾なんていう恐ろしい爆弾が落とされたんだ。
たった1発の爆弾で、街中が消えてしまうほど酷いもんだったらしい。」
「ああ・・・、原子爆弾ってのは、聞いたことがあるよ。」
哲司は、ようやくそれだけを口にする。
「だろ?
そうして死んでしまった人は、可哀想だけれど、それからの日本を作っていけないだろ?」
「う、うん・・・。」
「だからね、ひとりでも多く子供を産んで、これからの日本をしっかりと作っていって欲しいって思ったんだよ。
お国も、もう2度と戦争はしないって約束していたしね。
当時は、爺ちゃんや婆ちゃんと同じように思った人が沢山いたんだろうね。
あちこちで子供が生まれたんだ。
それが、ベビーブームって呼ばれた時だったんだね。
そんときゃあ、そんなことは考えもしてなかったけど・・・。」
お婆さんは、当時を思い出すのか、ふと懐かしそうな笑顔を見せながらそう言った。
(つづく)