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第7章 親と子のボーダーライン(その256)

「あ、ありがたい?」

正直、哲司にはそのお婆さんの感覚が分からなかった。


お婆さんをひとり残して戦争に行って、そして寝たっきりになるほどの大怪我をして戻ってきたお爺さんだ。


そんなに身動きも出来ないのであれば、家に帰って来ずに、どこかの病院に入院しているほうが良かったんじゃないのか?

病院だったら看護婦さんもいるし、お医者さんだっている。

食事だって作ってもらえるし、薬だって沢山ある。

痛くなったら、すぐにお医者さんに治してもらえるのに。


それに、そうして無理して帰ってきても、農作業だって何も出来なかったんだろ?

だとすれば、帰ってきただけで、お婆さんの仕事が増えるばかりだったんじゃないのか?


哲司はそう思うのに、当のお婆さんは「嬉しかったし、ありがたいと思った」と言う。

その辺りがどうにも理解できない。



「だから言ったろ?

人間ってのは、自分のために生きるもんじゃない。

自分が生きたいから生きてるんだってのは間違いなんだ。

人間は、周囲の人のために生きてるんだ。いや、生かされてるんだ。」

「・・・・・・。」


「爺ちゃんは婆ちゃんのために生きて戦地から戻って来てくれた。

そして、それからは家族のために一生懸命に働いてくれた。

だから、婆ちゃんは、その爺ちゃんのために役に立ちたかったんだ。

どうしたら爺ちゃんに喜んでもらえるのか。

そればっかり考えてたんだ。」

「・・・・・・。」


「でもねぇ、人間って、そうして誰かのために懸命になれるってことはとっても嬉しいことなんだよ。」

「ほ、ほんとに?」


「ああ・・・、婆ちゃん、嘘は言わない。

ボクちゃんも、今は自分のために頑張ったら良いんだろうけれど、そのうちに、そうだねぇ、もう少し大きくなったら、誰かのために頑張ってみたいって思える時期がくるよ。」

「そ、そうなのかなぁ・・・・。」

哲司は、もうひとつピンとこない。


「ほら、そうだよって、丸子も言ってる。」

お婆さんが丸子の身体を撫でながら言う。


「今はもう、爺ちゃんがいないから、その代わりをこの丸子がやってくれてる。

そう思うんだよ。

婆ちゃん、この丸子のために頑張って長生きしたいって思ってるし、丸子だって、この婆ちゃんがどうすれば喜ぶかって懸命に考えてくれてる。

だから、こうしてここでふたりで暮らしていたいんだ。

もう、どこにも行きたくないんだ。分かるだろ?」

お婆さんは、そう言ってにっこりと笑った。



(つづく)



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