第2章 奈菜と出会ったコンビニ(その23)
「・・・う〜ん、どうしてなのかなぁ。」
哲司は自分が選ばれたことに戸惑いがある。
確かに、奈菜とは付き合いたいと思っていた。
可愛いと思うし、こんな子が彼女だったらどんなにハッピーかと夢のようなことを考えたのも事実である。
だが、それは哲司の一方的な思い込みであって、たまたまあの釣銭事件があったから何となく話せるようになっただけである。
そこに友達からスノーボードを預かってきたものを、そのまま店に抱えていったから、奈菜に「スノボーをやるんだ」と誤解をされただけである。
その結果として、「一度、一泊でスノボーをやりに行かないか」と奈菜から誘われたものだが、これとて、そこから先、日程だとか、行き先だとかの具体的な話は一切進んでいなかった。
ようやく恋のスタートラインに立っただけの気持だった。
ただ、それだけの間柄なのだ。
そこに「妊娠」という異常事態が飛び込んできた。
もちろん、哲司にはそんなことは到底考えられないし、想像だにしなかったことである。
性行為どころか、キスすらもしてはいないし、手さえ握ったことはないのだから。
「どうして、僕なのです?」
哲司はまた同じことを訊いているという意識はある。
だが、それはそれだけ、そのことが理解できないからでもある。
「それは、先ほども言いましたが、あの子がそう願っているからです。」
店長は、あくまでもこれは奈菜本人の意向によるものだと説明をする。
「僕にどうしろと・・・・。」
哲司は、窓から見える奈菜に向って言うように、そう呟いた。
「では、順にお話しますので。」
店長は、このタイミングを逃してなるものか、という気迫で迫ってくる。
「順にというのでも良いのですが、できれば答えを先に教えてもらえませんか?」
哲司は、この自分に「どうしろ」と言いたいのかが知りたかった。
それによっては考えもできるが、無茶な話だったら、即座に断ろうと思っている。
「う〜ん・・・・答え・・・・ですか?」
店長もどうやらそう言われると辛いようである。
しばらくは、テーブルの上の珈琲カップを睨むようにして考えている。
どのように話を進めるか、それを思案しているのだと哲司は思った。
「じゃあ、私からお話しますわ。」
そう言ってきたのは、それまでは殆ど話さなかった喫茶店のマスターだった。
奈菜の祖父に当たる人物だと説明があった。
(つづく)