第7章 親と子のボーダーライン(その244)
「ん?」
哲司は、丸子ちゃんがどこに行ったのかが分からない。
「ああ・・・、丸子、憚りさんなんだよ。」
お婆さんがそう説明をしてくれる。
哲司の疑問が分かったのだろう。
「ハバカリさん?」
「ああ・・・、便所だよ。」
「な、なんだ・・・。」
哲司はくすっと笑った。
そりゃあ、犬だって生き物だ。
トイレぐらいはするし、必要な行為だ。
それでも、ああして、丸子ちゃんが態度で示し、それをお婆さんが分かってやっているという現実に驚きを感じる。
「あの子は、健康なんだねぇ。ほぼ、毎日、この時間になるとウンチをしに行く。
ほんと、羨ましいぐらいだよ。
ボクちゃんも、毎日、ちゃんとウンチはしてるかい?」
お婆さんは、開けっぴろげに訊いてくる。
「う~ん・・・、出るときもあるし、出ないときもある。」
哲司は正直に言う。
不思議と、お婆さんだと照れもなく言える。
「そうかい、そうかい。最近の都会の子は、不規則な生活をしとるようじゃしなぁ・・・。
それに、お米を食べん、野菜も食べん。肉ばっかし食っとる。
そりゃあ、フン詰まりにもなるわいなぁ・・・。」
お婆さんは、誰かのことを念頭においているような言い方をした。
「まぁ、ボクちゃんも、しばらく爺ちゃんのところにおったら、そんなもの、毎日どっと出るようになるわな。」
お婆さんは、そう言って、またまた顔をくしゃくしゃにして笑った。
「う、うん・・・。」
何とも下品な話になったが、こうした会話を嫌だと思わない自分に、正直、哲司は驚いている。
自分の家や学校では、なかなかそうした話しは出来はしない。
丸子ちゃんが戻ってくる。
それこそ、身体が軽くなりましたってな顔をしてだ。
哲司がそうした意識で見るからかもしれないが、どうも腰の辺りがすっきりとしたように思える。
「はい、じゃあ、お客さんに御免なさいをして・・・。」
お婆さんが枕元のティッシュを何枚か取った。
すると、丸子ちゃんが哲司を気にするかのようにしながら、自分のお尻をお婆さんに向ける。そして、お婆さんにお尻を拭いてもらう。
「はい、じゃあ、これを捨てておいで・・・。」
お婆さんは、使ったティッシュをビニール袋に入れて、丸子ちゃんに差し出す。
丸子ちゃんがそれを咥えて、また部屋を出て行った。
(つづく)