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第7章 親と子のボーダーライン(その240)

「よく気がつくねぇ・・・。」

お婆さんが言った。


「ん?」

「婆ちゃんは、冷たいものは駄目なんだよ。

だから、氷を入れないで呉れたんだろ?

それに、量もこれぐらいに抑えてくれて・・・。」

「ああ・・・、う、うん。」

哲司は嬉しくなる。

いろいろと迷った結果だったが、そうして迷ったことをお婆さんに認めてもらえたような気がしたからだ。


お婆さんは、枕元においてあった透明な容器のようなものを取り出してくる。

そして、それを哲司に差し出してくる。


「こ、これは?」

哲司が訊く。


「婆ちゃんのコップなんだよ。これが無いと飲めなくて・・・。

で、悪いんだけど・・・、そのジュースをこの中に入れてくれないかい?」

「ああ・・・、良いよ。」

哲司は、お婆さんの手から容器を受け取る。

透明な土瓶のような形をしている。


一般的には“吸い飲み”と呼ばれるものなのだが、哲司はその名称を知らなかった。

いや名称どころか、その現物を見たのは初めてだった。

それでも、蓋を取って、その中へコップのジュースを注ぎ入れる。


「こ、これで良いの?」

哲司が確認を求める。やはり不安なのだ。


「ああ、上手に入った。それで、その蓋をして・・・。」

「うん。」

哲司が蓋を閉める。

そして、お婆さんの手に戻した。


「ありがとね。」

お婆さんは、そう言ったかと思うと、土瓶の注ぎ口にあたる部分に口を付けてジュースを飲んだ。


「ああ・・・、美味しいよ。ありがとね。ボクちゃんも飲みなさい。」

お婆さんは嬉しそうに言った。


「う、うん・・・。」

哲司も、どうしてか笑顔になる。

礼を言われたことに対する照れが混じって、複雑な笑い方になった。


哲司は氷の入ったジュースを一口飲んだ。

この動作自体は簡単なことだ。

哲司も、気が付いたら、こうして両手でコップを持って何かを飲むということをやれるようになっていた。

それなのに・・・、と思う。

このお婆さんは、こうして普通にコップで物を飲むことが出来ないのだ。

そのことが、哲司を押し黙らせてしまう。



(つづく)




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