第2章 奈菜と出会ったコンビニ(その22)
「集団暴行って・・・・・・・。
でも、そんなことをされれば、記憶にないってことは考えられないじゃないですか。
映画じゃあるまいし、そんなこと、簡単には信じられませんよ。
作り話だとは言いたくはありませんけれど。」
哲司はどう考えても現実的には捉えられない。
「やはり、そのように思われるでしょうね。それが当然かと思います。
義兄からその話を聞いても、私も、そしてうちのオヤジも信じることは出来ませんでしたからね。
でも、どうやら本当にあったことのようです。」
店長はポケットから、何やら紙のようなものを取り出した。
そして、哲司のほうにそっと押し出してくる。
「これは?」
哲司はまだその紙のようなものに手を伸ばしてはいない。
少なくとも、単なる興味本位だけで関われる問題ではないという気がしている。
「あの子がもらった診断書です。」
店長は、そこで大きな溜息をついた。
その溜息を意識して、哲司はますますその紙に手が出しづらくなっている。
「見て頂いて結構ですよ。あの子も了解していることですから。」
哲司が動かないのを見て、店長がそのように補足する。
自分の独断ではないのだと言いたげである。
「でも、どうして僕にそこまで・・・。
そこのところが分らんのです。」
哲司は、自分が迷っている境界線を口にする。
「奈菜はね、貴方に助けて欲しいって思っているんです。」
店長がまた向かいの店を見る。
それに引きずられるようにして、哲司も同じように視線を向ける。
店内を動き回る奈菜の姿が見える。
相変わらず、可愛いと思える哲司である。
しばらくは、窓から見える奈菜の姿を目で追っていた。
考える時間をくれているのだろう、店長もただ黙ってそれに付き合ってくれている。
「どうでしょう?
これから私がお話しすることを、取り敢えずはただ黙ってお聞きいただけませんか?だからといって、何かを強制するつもりは毛頭ありませんから。」
店長が哲司の顔をじっと見る。
ふと気がついたら、カウンターの中にいると思っていたここのマスター、つまりは奈菜のおじいちゃんまでもが近くの椅子に腰を掛けていた。
そして、ふたりが揃って、哲司の答えを待っている。
(つづく)