第7章 親と子のボーダーライン(その237)
「婆ちゃんは、“この世”で死んだら“あの世”で赤ちゃんとして生まれかわるんだ。
だから、怖いとは思ってないんだよ。」
お婆さんはそう言ってにっこり笑った。
「ただねぇ・・・。」
お婆さんが辛そうな顔になる。
「ん?」
「この子を残していくことだけが何とも気がかりでねぇ・・・。」
お婆さんは丸子ちゃんの頭を撫でて言う。
「この子は、婆ちゃんが淋しいだろうって駐在さんが貰ってきてくれたんだけれど、私が死んだら、今度はこの子がひとりになっちまう。
それが可哀想でねぇ・・・。
何か、悪いことをしたような気がして・・・。」
「そ、そんなことは無いよ。婆ちゃん!」
おじさん警察官が慌てるようにして言う。
「で、でも・・・。」
「丸子ちゃんのことは、私が責任を持つ。
婆ちゃんは、そんなことを気にしないで、その日その日をこの丸子ちゃんと楽しんでくれや。
そのために、この子を貰ってきたんだし。
丸子ちゃんだって、婆ちゃんとこうして生活することになって、きっと喜んでるよ。
そうでなきゃ、もう・・・。」
おじさん警察官は、その最後の言葉をどうしてか飲み込んだ。
「おおっ! も、もうこんな時間になった・・・。」
おじさん警察官は時計を見てそう言った。
そして、腰を浮かせる。
「じゃあ、婆ちゃん、またな。
ああ・・・、それから、この哲司君、周蔵爺さんが迎えにくるまで、ここにいるから・・・。」
「ああ・・・、そうかい・・・。」
お婆さんは嬉しそうにした。
「じゃあ、哲司君、またな。」
おじさん警察官は、見上げた哲司に敬礼で応える。
そして、ドタドタと廊下を玄関へと向かっていく。
その後ろを丸子ちゃんが追っかけていく。
見送りに行くつもりなのだろう。
「じゃあ、丸子ちゃん、婆ちゃんをよろしくな。」
その声を最後に、おじさんの足音が表へと出て行った。
その足音が消えるのを待っていたかのように、また丸子ちゃんが駆け戻ってくる。
そして、お婆さんの傍へとちょこんと正座をする。
多少は息が乱れている。
(つづく)